4.スイングウェイトの影響
スイングウエイトが重いとスイングはコンパクトになる
ご存じでない方も多いと思いますが、ラケットにはスイングウェイトという数値があり、同じモデルでも1本1本、その値は異なります。
ラケットの重さ(重量)とバランスポイントについては、製品の基準となる数値がカタログにも明記されているのでラケットに詳しい方はご存じでしょうが、スイングウェイトというのは初耳だという方も多いでしょう。
これは平たくいえば「ラケットを振った時の重さの感じ」ということができます。
計測方法は図1のようにして、グリップを測定機に固定してヘッドを振って計ります。
図1
スイングウェイトというのは通称で、ちょっとむずかしく言うと「慣性モーメント」です。
ラケットを静止状態で持っているときの重量感ではなく、グリップを持って振っている時の重量感ということができます。
ラケットは振って使うものなので、振った状態で計測した方が人間の感覚に一番近いといえるでしょう。
それでは、スイングウェイトの数値の大小によってラケットドックではどんな現象が出るのでしょうか。
スイングウェイトが大きいということは、簡単にいえば取り回しが重いということですので、非力な方には負担になります。
取り回しに負担を感じると、プレーヤーは脇を締めてスイング半径を小さくしようとします。
これは、スイングの半径を大きくすればするほど、重いラケットから受ける腕の負担が増大して微妙なスイングコントロールができなくなるためです。
重いものを体から離して持つのが辛いのと同じです。
画像A 本人のスイングウエイトが重いラケットで打ったとき
脇を締めて肘が脇腹にくっついたままスイングしています。ラケットヘッドも前に出ずインパクト後にすぐに左側にたたまれています。
画像B 普通のスイングウエイトのモデル
画像Aに比べるとワキが開くようになり、スイングが大きくなっています。
スイングウエイトが重いと後方に下がって打つ
次に見られる症状が「後ろに下がる」という現象です。
Aのショットで、プレーヤーの立ち位置とボールの落下点を示したのがCの画像ですが、かなり後ろに居るのが分かります。
画像C
ベースラインからかなり下がった位置に立ってストロークを打ち合うという状態ですが、これは時間を稼ぎたいという気持ちの現れです。
取り回しが重いラケットでも振り遅れないようにしたいという気持ちが無意識のうちに働いて、ボールがバウンドしてからインパクトするまでの時間を長くするために後ろに下がるのだと思われます。
その結果として、常にネットから遠い位置でプレーすることになり、ボレーに出にくくなります。
ネットにつめる途中のボレーも、ネットから遠くで打つので難しくなるため、前に出るのには消極的なポジショニングといえます。
また、ボレーというショットそのものの性格として、相手との距離が近いためにすばやくラケットを操作しなければならないので、取り回しの重いラケットではきちんと当たらないことが多くなります。
ボレーが嫌いだというプレーヤーの中には、スイングウェイトの重すぎるラケットを使っている場合が多いのですが、ご自分ではそれに気が付いていない場合が多く、自分はボレーできちんとボールをとらえるのがヘタだと思いこんでいる方も多いのではないでしょうか。
一昔前のロングフレームのラケットには、スイングウェイトが異常に重いものが多くありましたので、そういうモデルをお使いでボレーに苦手意識を持たれている方がいましたら、一度チェックしたほうが良いかもしれません。
スイングウェイトは重いほうが安定する
スイング中のボールとのインパクトについて、ボールとラケットの衝突という見方をすると、スイングウェイトの重いラケットほど、インパクトでボールから受ける影響は小さくなります。
インパクトでボールから受ける衝撃が小さく、そのため、ヘッドスピードもそれほど落ちません。
これと反対に、スイングウェイトの極端に軽いラケットはボールが当たった時の影響が大きくなります。
衝突の衝撃を強く感じてスイングスピードが低下します。
小学生が走ってきて人にぶつかった時、やせた大人は倒れるかもしれませんが、太ったお相撲さんは倒れないという感じと同じです。
ボールの強さとスイングウェイト
この場合、飛んでくるボールのスピードが速ければ速いほど、ボール側の運動エネルギーが大きくなるので、衝突によってラケットが受ける影響は大きくなります。
インパクトでラケットが押される力が強くなるわけで、それに対抗するためには、スイングウェイトの重いラケットが必要になります。
この逆の場合、すなわち、スピードの遅いボールに対してはスイングウェイトの重いラケットは必要ないといえます。
強打の打ち合いにはスイングウェイトの重いラケットが必要ですが、遅いボールの打ち合いにはスイングウェイトの軽いラケットでも、問題は発生しないのです。
プロ選手の使用しているラケットが、一般に市販されているものより重くなっていることが多いのはこういう理由です。
軽いラケットを使うとより大振りになる
同じ重さのボールでも、飛んでくるスピードが速ければ速いほど、打ち返すために大きなエネルギーが必要になりますが、これと同じことがラケットにも言えます。
スイングウェイトが軽くて打ち負けやすいラケットでもスイングスピードを速くすれば、強いボールに打ち負けないようになります。
これを裏返せば、スイングウェイトの軽いラケットで強いボールに打ち負けないようにするには、速いスイングスピードが必要だということです。
よく、「軽いラケットを持つと大振りになる」と言われますが、軽くて振りやすいから振り過ぎるのではなく、振らなければボールが飛ばないから振らざるを得ないというのが真相です。
逆に、スイングウェイトの重いラケットでスイングスピードを速くし過ぎると、ボールが飛びすぎてコントロールし切れなくなるため、スイングがコンパクトになったり、リズムがゆったりとしてきます。
スイングウェイトが軽いと別の弊害が出る
実は、スイングウェイトが軽くて大振りになるのはまだマシなほうで、本当は、もっと悪い影響が別にあります。
それは「力んで打つようになる」ことです。
スイングウェイトが軽いと飛んで来るボールに負けやすくなるので、プレイヤーは反射的に力を入れて、ボールに押されるのをこらえようとします。
そうすると腕に力が入るのですが、力が入るとヘッドスピードは逆に上がりにくくなります。
手に持ったモノを速く振るには腕をムチのようにしなやかに使う必要があるのですが、ボールに負けまいとして力を入れるとブロックするような動きになるので、ヘッドスピードは上がりません。
スイングウェイトが軽いラケットは速いヘッドスピードが必要なのに、逆に、ヘッドスピードが出にくい状態になってしまうのです。
ですから、スイングウェイトが軽すぎるのと重すぎるのでは、重すぎるほうがまだマシと言えるかもしれません。
スイングウェイトはバラつく
スイングウェイトは、同じモデルでも20ポイントくらいの幅でバラつくことがあります。
今回のレポートで、スイングウェイトがプレーに影響を与えることをご理解いただいたけたと思いますので、よりフィットするラケット選びを目指すため頭の片隅に置いておいてください。
バランスポイントというのも重量の配置状態をチェックする方法の一つですが、昔から使われている割にあまり有効な数値とは言えません。
その理由は、静止している状態で計測する数値なので、動かして使うものに適さない部分があるのと、図2のように、重心位置の左右でバランスしさえすれば重量がどこにあっても関係がないので、バランスポイントが同じでもグリップ部分を持って振った時には全く違うということが起こります。
図2
図2のような重量配分のラケットがあった場合、①と②で重量とバランスポイントの数値は同じになりますが、実際に振った時の感じは①の方が重くなり、スイングウェイトの数値も①の方が大きくなります。
トップヘビー、トップライトという表現も、バランスポイントではなくスイングウェイトの感覚として把握した方が良いでしょう。