8.ラケットに必要な性能とは

実際のプレーでラケットに必要とされる性能とは!

前回では、ラケットドックで選ばれるラケットはパワーを抑えたモデルが多いと書きましたが、今回はその中身をもう少し掘り下げてみたいと思います。

ベストフィットモデルのスペック別集計

最近のラケットドック実施対象者について、ベストフィットとして選択されたモデルを、フェースサイズとフレーム厚の数値で分類集計してみました。
フェースサイズ、フレーム厚ともに数値の大きいほうがボールを飛ばす力が大きく、小さくて薄いほうが飛ばないというというのがスペック数値の基本的な見方です。
ラケットの性能を厳密に評価するのにはこれらの数値だけでは不充分ですが、選ばれたラケットを大まかに分類するのには外形スペックは使いやすい数値だといえます。

フェースサイズ構成比

下のグラフは、ベストフィットモデルとして選択されたモデルをフェースサイズ別に集計して構成比を出したものです。
これを見ると、比較的小さ目と言える102平方インチのミッドプラス(MP)までが合計で73%を占めており、オーバーサイズ(OS)といわれる105~110平方インチのジャンルは30%を切っています。
少し前までは、このOSが一般的なサイズとされていたのですが、現状ではメジャーな存在ではなくなってきているということです。

フレーム厚構成比

フレーム厚構成比のグラフ(下左図)を見ていただくと、フレーム厚23mm以下の薄いタイプが全体の70%以上を占めており、24~26mmの通常「中厚」といわれるジャンルは30%弱の構成比となっております。
さらにご注目いただきたいのは、OSの中でのフレーム厚の構成比(下右図)です。
フレーム厚23mm以下の薄いモデルを合計すると80%以上に達しており、OSといえども、飛びを抑えた薄いシリアスタイプがそのほとんどを占めているという状態です。

飛ばないシリアスタイプが中心


これらの結果を総合したものがジャンル別構成比(上図)ですが、フレーム厚23mm以下でフェースサイズ102平方インチ以下の薄いMPタイプが、全体の半数近い48%に達しています。
これにフレーム厚25mmまでの中厚MPと、フレーム厚23mm以下の薄いOSを加えると、実に全体の95%となっています。
従来は、スーパーオーバーサイズの厚ラケが楽なモデル、中厚オーバーサイズが標準的な中間タイプ、ミッドプラスや薄いラケットは選手向けのシリアスタイプというのが常識的な区分けとなっていました。
ラケットドックの現場では、その選手向けとされていたジャンルが選択の中心となっており、標準的なジャンルといわれた中厚オーバーサイズの構成比は、わずか5%となっています。

厚ラケは含まれなかった

わざわざ指摘するまでもないかもしれませんが、現在、各ラケットブランドのラインナップに必ず含まれている110平方インチを超えるスーパーオーバーサイズや、28~30mmの厚ラケは選ばれた中には入っておりません。
そうしたモデルが候補対象に入っていなかったのではなく結果的に必要とされていなかったのだということは、先の構成比グラフを見ていただければご理解いただけると思います。

対象者の年齢・性別構成

こういうデータを見ると、集計対象となったプレーヤーは若い学生などがほとんどではないかと思われる方がいるかもしれませんので、性別と年齢をチェックしてみました。
9歳のジュニアや67歳の熟年プレーヤーも含まれますが、集計結果は男女比が63:37で、男性の平均年齢が37歳、女性の平均年齢も同レベルの36歳でした。
日本のテニスプレーヤー全体の平均年齢も、おそらくこれくらいだと思われますので、それほど偏った年齢構成ではないといえます。

今のプレーヤーに必要とされているラケット

これまで、販売されたラケットの集計データというものは存在しても、「プレーにフィットするラケット」という切り口での集計データは無かったように思います。
今回のデータは、最初に述べましたようにラケットドックで実施対象者にフィットしたモデルを集計したものですので、ラケットの購入希望や販売実績を集計したものとは根本的な性格が異なります。
つまり、これらのモデルは、「プレーヤーの持っているイメージや先入観」、「ブランドやプロ選手の人気」などに影響されることなく、純粋に「プレーが良くなるラケット」として選択されたものです。
そういう意味で、これらのデータは現在の一般的なプレーヤーに対して「必要とされているラケット」は何なのかを表しているといえます。

ラケットメーカーの商品展開とのズレ!?

この結果を踏まえて現状のラケット市場の商品構成を見直してみると、フレームの素材と製造技術の進化、革新によってラケット全体の性能が底上げされてきた結果、フェースサイズは90~125平方インチ、フレーム厚は17~30mmという従来からのラケットスペックの範囲が、現在のプレーヤーのニーズと合わなくなってきたのではないかという仮説が成り立ちます。

ウイルソンのnSix-One95(95平方インチ×22mm)は、間違いなく10年前のプロスタッフ6.1の95よりスイートエリアは広くなってパワーも増してやさしくなっており、プリンスのツアーNXグラファイトOS(107平方インチ×20mm)は、20年前のグラファイトOSより面の安定性が高くスピードのあるボレーが簡単に打てます。

ラケットの買い換えを検討される時は、今お使いのラケットより薄くて小さいスペックのものも候補に加えられることをお勧めします。

現実的に、パワーレベルで分ければ、ラケットドックで必要とされるモデルは中間から飛ばない範囲だけで充分間に合っています。(下図)

もしこれが、今後のプレーヤーニーズを予見するものであるなら、この範囲の商品展開をもっと細分化して組み立てる必要が有るということになります。

それはもしかすると、厚ラケが出て来る前の状態に戻るということかも。