ガットの硬さが不適切になる原因
張りが硬すぎる!
ラケットドックでは参加者のラケットのストリングの状態をチェックしていますが、男女を問わず、硬すぎる張り上がりになっていることが少なくありません。
その影響で、打つときの力みやバランスの崩れ、回転のかからない打球のすっぽ抜け等のプレー上の障害が出るのですが、にもかかわらず、使っている本人が硬く張っているとは思っていないケースが多いのです。
というのも、そういうケースで多いのは、推奨テンションの下限や下限以下の数値で張っているために、まさか硬いとは思わず、そうしたプレー上の障害が起きていても硬い張り上がりのせいというのが想定外なのです。
このように、知らないうちに不適切なストリングの硬さで重荷を背負いながらプレーしている恐れは誰にでもあるようなので、そんなことを避けるために、以下の内容をお読みいただければと思います。
「適正テンション」が元凶!?
どんなラケットにも「適正テンション」や「推奨テンション」という名前で「50~60」というような数値の範囲が具体的に表示されています。
メーカーが自社製品について表記している数値なので、「ストリングを張るときはその推奨の範囲内で張れば安心!」と誰もが思うのは当然の話です。
でも、それが原因で「硬すぎる張り上がりが多い」という事態が起きているのはまぎれもない現実なのです。
「適正テンション」が適正ではない
現実問題として、ラケットメーカーが自社製品の試打会を行う場合、当然、使用するラケットのストリング・セッティングは打ちやすい状態に仕上げなければならないのですが、そのときの使用張力が適正テンションの下限を下回っているケースが多いということはあまり知られていません。
国内でベストセラーを続けている「バボラ/ピュアドライブ」には「50~59ポンド」と表記されています。
(2015年モデル。その前作までは「55~62ポンド」と表記)
ウイルソンのラケットもそのほとんどについて「50~60ポンド」と表示されています。
これを見れば誰でも「50ポンドくらいで張れば下限だから柔らかい」と思うのが自然ですが、50ポンドというテンションで柔らかく張り上がるのは今から30年以上も前の話です。
その頃から現在まで、ストリングマシンは順調な進化を続けており、その影響で50ポンドというテンションで張り上がる硬さは大きく変わっているのです。
その証拠に、ヨネックスやスリクソンのような国内で企画されているラケットブランドについてはモデルチェンジごとに表記数値が下がり、現状では「40ポンド~」という表記が増えています。
同じ100平方インチのフェースサイズのラケットで、ブランドによって適正テンションの下限値が10ポンドも違うというのはおかしな話ですが、こういう現実があることをきちんと理解しておくことが大切です。
(※テンションと張り上がった硬さの関係はストリンガーによって大きく変わるため、50ポンドで柔らかく張り上がるケースが全く無いとは言い切れません。
作業途中でゆるむ量が多いほど、同じテンションでも張り上がりの硬さは柔らかくなります。)
click!⇒推奨テンションが適切ではない
どんなラケットにも「推奨テンション」の数値範囲は記載されているので、これを信じてしまう方が少なくないのですが、実際問題として、この数値が適切ではないため、推奨範囲の下限で張っても硬すぎる張り上がりになってしまうことが少なくありません。それによってテニスエルボーになってしまうケースもあります。
「テンション」では張り上がりの硬さがわからない
ラケットメーカーのテンション表示が適切でないにしても、それが硬すぎる張り上がりに直結してしまうのはどうしてでしょうか。
その理由は「張り上がったときの硬さ」を計測していないからです。
結果を測定しなければ硬いかどうかは判断できないわけです。
テンションの数値は、ストリングを張るときにマシンの張力を調節するときに使用する数値なので、その数値で張った結果、どの程度の硬さに張り上がったのかを示すものではありません。
「どの程度の硬さに張り上がったのか」を知るには、ストリングマシンとは別の専用の計測機で測定する必要があるのですが、張り上がったときにそうした計測機で測定しているケースは少ないのです。
「どの程度の硬さに張り上がったのか」は「面圧」と呼ばれています。
「ストリング面の圧力」というような意味合いだと思われますが、「テンション」と「面圧」は全く別のものなのです。
結果の測定をしなければ、昔ながらの「50~60ポンド」から「大きくハズレなければなんとなく安心」と考えていたり、推奨テンションの表示を鵜呑みにしたりしていれば、硬すぎる張り上がりになるのは避けられないでしょう。
モデルごとに異なるテンション設定が必要
同じフェースサイズのモデルであっても、フレームの剛性やグロメットの構造、ストリングパターン等が異なれば、その影響で張り上がりの硬さは変わります。
ですから、同じテンションで張っても、モデルが異なれば張り上がりの硬さ(面圧)は変わります。
逆に言えば、異なるモデルを同じ硬さ(面圧)に張り上げようとする場合は、個々のモデルについて異なるテンションで張る必要があるわけです。
そのためには、張り上がりの硬さを計測することが最低条件で、それが行われていない場合は、モデルごとにどれくらいの程度テンションで張れば同じ硬さになるのかがわかりません。
ラケットドックで使用されるラケットは、それぞれが「適切な硬さ」になるように異なるテンションで張られています。
そのおかげで、同じ硬さに張り上がった複数のモデルを打ち比べることができるのですが、見方を変えれば、同じ硬さに張り上がっていないラケットを打ち比べても正確な比較はできないということです。
適切な硬さ
テニスワンでは、これまでの10,000名以上のラケットフィッティングの経験から、一般的なプレイヤーのプレー状態が良くなるストリングの硬さが、ある範囲に集中しているということを把握しています。
もちろんそれは、ストリングが張り上がった状態の硬さですから、テンションではなく「面圧」ということです。
さらに、これまでのラケットフィッティングの経験からわかったことは、「ストリング・セッティングが適切でない場合は、どんなラケットを選んでも良い状態にはならない」ということです。
ボールが当たるのはフレームではなくストリング面なので、その反応がラケットの性能を最終的に決めるわけです。
せっかく自分に合うラケットを選んでも、ストリング・セッティングを間違えると、全く合わないラケットを選んだのと何も変わらない状態になります。
料理に例えると、どんな高級食材でも、味付けに失敗すれば食べる価値が無くなってしまうのと同じ理屈です。
自分に合うラケットを使ったことのない人は合うラケットのプレー感覚がわからないのと同じように、適切なストリングの硬さは、それで実際に打ってみないと、その爽快感は実感できないでしょう。
自分の技術の問題だと思っていたことが、実は不適切な硬さのせいだったということも現実に少なくありません。
どんなに優れた性能のラケットもストリング・セッティングだけで台無しになってしまうということを忘れないで下さい。
click!⇒スナップバックで適切な硬さを判断
ガット張りの硬さはどれくらいが適切なのかについては諸説ありますが、テニスワンでは「スナップバックが適切に機能するかどうか」という点に注目しています。ボールが食い付かなかったり、スッポ抜けたりするのはスナップバックが機能していないからで、それと張上の硬さには密接な関係があります。
click!⇒ラケットの打球感は伝達ロス!
テニスラケットの打球感は単なる伝達ロスです。なので「好きな打球感」のラケットを選んでいると負けやすい状態に陥る可能性があります。打球感が無いのが最高なのに、打球感をしっかり感じるラケットを選ぶと、いろいろな弊害が生まれます。