ラケットのスイングウェイトとは
振ったときの重量感を示す数値
スイングウェイトとは文字どおり、「スイング」したときの「ウェイト」、つまり「振り重み」ということで、実際にラケットを振ったときの「重量感」を示す数値です。
テニスラケットのスイングウェイトを測定するためには、写真のような専用の測定機械があって、それにラケットをセットして実際に振って計測します。
スイングウェイトの計測の値はラケット1本1本で異なります。
そして、同じモデルでも20~30ポイントくらいのバラツキ幅があります。
ラケット1本1本に「個体差がある」ということです。
数値の大きさとしては250~350くらいなのですが、同じモデルでも1本1本バラツキがあるので、スイングウェイト280という1本のラケットがあった場合、同じモデルでも270と290くらいはあるだろうという推測が成り立ちます。
「スイングウェイト」については、カタログなどに表示されている「重量」と間違われやすいのですが、「重量」はあくまで静止状態の計測数値なのに対して、「スイングウェイト」はグリップを持って振ったときの動的な「重量感」を示す数値です。
スイングウェイトと重量の違いは「振っているときと静止しているときの違い」とご理解いただければ良いと思います。
でも、テニスラケットは振って使うものですから、単純な重量よりスイングウェイトの数値のほうが重要ということです。
ボールが当たったときの安定性を示す
スイングウェイトを「プレイヤーがラケットを振る」という側面から見ると、「スイングウェイトが重いと振りにくい」、「スイングウェイトが軽いと楽に振れる」ということになるのですが、「ボールとラケットの衝突」という側面からこの数値を見た場合は、全く別の意味を持っています。
ボールとラケットが衝突する場合、テニスボールの重さは基本的に一定なので、ラケット側が重ければ重いほど、ラケットが受ける衝突の影響は小さくなります。
プラスチックの空バケツにボールをぶつけるとバケツは転がりますが、水が一杯に入ったバケツにボールをぶつけてもバケツが倒れないのと同じ理屈だとご理解ください。
スイングウェイトが軽いラケット=振り出すときに軽く感じるラケットは、ボールが当たったときに打ち負けてグラつきやすく、反対に、スイングウェイトが重いラケット=振り出しが重いラケットは、ボールが当たってもグラグラしにくく安定しているのです。
ラケットの安定性は重量では決まらない
この点についても、重量とゴチャゴチャになってしまうことがよくあって、重量が重いと安定するように思われがちですが、重量が重くてもスイングウェイトが軽い場合は「グリップ部分が重い」と考えられますので、そういうボールの当たらないところが重くても安定性は上がりません。
反対に、重量が軽くてスイングウェイトが重い場合は「フェース部分が重い」と考えられますので、ボールの当たる部分が重ければインパクトで安定するということです。
でも、スイングウェイトが重すぎると取り回しが重いので、重量がどんなに軽くても操作性が悪く、腕力のない方は苦労します。
重量ではなくスイングウェイトが安定性や振りやすさを決めるのです。
※「ラケットの重さ」という、一見単純そうなことの中に誰もがはまってしまう落とし穴が潜んでいます。
ラケットの重さとスイングウェイトについては、ここまでまでの説明でもわかりにくいかもしれません。
さらにご理解を深めていただくための図解があります。こちらをご覧ください。
⇒ラケット選びの基本その2:「重さの誤解を取り除く」
スイングウェイトが軽いとダメ
テニスボールの重さは約60gですが、そういう重さのものが実戦レベルのスピードで飛んできてラケットにぶつかる場合、スイングウェイトが軽ければ軽いほどボールに負けやすくなるので、インパクトの衝撃が強くなり、面がブレやすくなります。
そして、そういうラケットでボールを打っていると、プレイヤーの腕には自然と力が入ってしまいます。
強い衝撃でラケットがグラグラすることが予想されるのに、リラックスした状態でラケットを振るわけにはいかないので、打ち負けまいとして知らないうちに力んで打つようになるのです。
さらに、テニスでは力んで打つとあまり良いことがないので、ショットが安定しなくなってミスが増えます。
ということは、スイングウェイトの数値が軽すぎる場合、振り出すときには楽でもプレー上は明らかな弊害があるわけで、それを防ぐにはある程度以上の数値が必要だということがわかります。
スイングウェイトが重すぎるのもダメ
でも、スイングウェイトが重いほうがボールが当たったときには有利だとしても、もう一つの「プレイヤーがラケットを振るときの重量感」という側面もあるため、スイングウェイトは重いほど良いということではありません。
テニスは、何度も繰り返してラケットを素早く振らなければならないスポーツなので、スイングウェイトが重すぎると振ることが難しくなるわけです。
その結果、実戦レベルの打球スピードで打ち合うためには「これくらいの数値は必要だけれど、これ以上は要らない」という数値範囲がおのずと決まってくるわけです。
軽すぎるもののほうが多い
そして、これはあくまでラケットフィッティングを実施してきたテニスワン独自の判断であって、テニス界全体の常識ということではありませんが、現在のラケット市場には、残念なことに、スイングウェイトの数値が適正範囲を外れているラケットが、意外に数多く流通しています。
そして、現実的には、スイングウェイトの数値が適正でない場合、9:1か8:2くらいの割合でスイングウェイトが軽すぎるケースのほうが多いのです。
そのため、ラケットフィッティングの現場で見る限り、スイングウェイトが軽すぎることの被害を受けているプレイヤーが多く存在しています。
先述したように、「力んで打つようになってしまう」というケースで、その副作用として、
「大振りになってしまう」
「打つ前に足が早く止まる」
「すっぽ抜けのアウトが出る」
「ショートラリーなどの柔らかいショットが打てない」
等の症状がついて回ることが多いようです。
力んで打っても打球の勢いは上がらないので、力みがさらなる力みを誘ってしまうことが多いのですが、もともとは合わないラケットが原因で起きていることですので、本人の努力では治らないことが多いようです。
ただ、本人は「打つときに力んでしまうのは自分の悪いクセだ」と思い込んでいることが多く、ラケットのせいだなどとは思いもしないため、スイングウェイトの影響を見過ごすと思わぬところで損をすることがあるわけです。
ラケット選びにはスイングウェイトという「思いもよらぬ落とし穴」があるということを覚えておいてください。