打ち方を直すには
テニスの打ち方を直すには
上達への近道
●打ち方を直す方法
これについてはシンプルにお考えください。
その方法とは「同じことを何度も繰り返して身体に覚え込ませる」です。
飛んで来るボールの状態は毎回違うわけですが、それぞれのボールに対して最適な対応を瞬間的に実行するためには、考えていては間に合いません。
なので、考えずに反射的に動ける「無意識的な運動」が必要になるのですが、これを身に付けるには「同じことを何度も繰り返す」以外に方法はありません。
このように、とても単純な話なのですが、ただ、やり方を間違えるといくらやっても効果が上がりませんので、簡単な注意点を書かせていただきます。
●一連の運動パターンを「運動記憶」のボックスにしまい込む
「同じことを何度も繰り返して身体に覚え込ませる」については、頭の中に「運動記憶」というボックスがあって、「身体で覚えた運動」をそこにしまい込むようなイメージでお考えいただければと思います。
実際に、いろいろな「運動パターン」を覚え込むのは、脳の中でも小脳を中心にした部位で、「思考活動」に使われる大脳皮質とは別の場所です。(小脳は、文字どおりサイズの小さい脳なのですが、でも、その細胞数は大脳の7倍くらいあるので、目立たない実力者のような存在です。)
初めてのことは、最初からいちいち手順を考えながらやらないとうまくできませんが、それを何度も繰り返すと、考えることをパスしてできるようになり、そうすると格段に処理スピードがアップします。
複雑な作業を手早くこなすには「熟練」が必要ですが、その「熟練」というのが一連の運動パターンを「運動記憶」のボックスにしまい込む過程だとお考えください。
そして、一連の運動パターンを「運動記憶」のボックスにしまい込む過程のスタートは「素振り」です。
●素振り
「素振りなんていまさら」と思われる方も多いでしょうが、ボールを打つときの動きを変えようとすれば、ここを避けて通ることはできないでしょう。
素振りの良いところは、「考えた動きが必ずできる」という点です。自分の身体を思いどおりに動かせない人は居ないはずなので、「素振りだったら何でもできる!」わけです。
ですから、目指すスイングが素振りなら誰でもできるのですが、でも、いざボールが飛んで来ると元のスイングに戻ってしまいます。
その理由は、その「目指す動き」が「運動記憶」のボックスに入っていないことにあります。
目指すスイングを素振りでちょっとやってみて「あぁそうか、わかった」と誰もが思うのですが、それは「わかった」だけなので、「無意識的にできるようになった」ということではありません。
プレー中は「【意識的】な動きでボールを打っている」と考えている人がほとんどなので、頭で動きを理解すれば、あとは同じことをプレー中にやれば良いと考えて、「よしわかった」と思ってしまうようです。
ところがどっこい、頭で理解しただけでは「運動記憶」の中には何も入っていないので、瞬間的な対応が要求されるプレー中には使える運動パターンがないわけです。
身体で覚えていないので、「身体が勝手に動く」という状態になっていないのです。
そうすると、やるべき動きを思い出しながら考えて打とうとするわけですが、そんな対応では時間的に間に合うわけがなく、動きがギクシャクしてどうにもならなくなるので、元のスイングに戻ってしまうわけです。
素振りの一番良いところは、ボールが飛んでこないことにあります。
というのも、ボールが飛んで来ると、そのボールに合わせた運動調整が必要になるので、思いどおりにはスイングできません。
ですから、目指す動きを身体で覚えるには素振りが最適なのです。
●素振りの注意点
各ショットの素振りの仕方についてはここでは触れませんが、注意していただきたいことが二点あります。
第一に、素振りでは身体の各部分の運動のつながり(運動連鎖)を覚えるわけですが、全体をきちんとつなげるにはそれなりの時間がかかるという点です。
下半身から運動をスタートさせて最後にラケットが振られるというような運動連鎖では、その全工程をこなすにはトータルで1.0秒くらいの時間がかかるので、その時間感覚もリズムとして身体で覚えることが必要です。
実際のプレーでは、ボールインパクトから逆算して運動連鎖をスタートさせなければなりませんが、時間感覚が身についていないと適切なタイミングでスタートできません。
運動連鎖の開始締切時間を過ぎてしまうと、最後の帳尻を合わせるために、運動連鎖のスタート部分がカットされます。
運動の前振りとなる下半身の動きが省略されてしまうわけです。
そうすると、下半身の動きが無くなってそのパワーアシストが使えなくなるため、腕だけで力んで打つような状態になります。
ですから、素振りの際には、飛んで来るボールに同調するような動きのリズム感も同時に身に付けてください。
第二に、繰り返しの仕上げ段階では、身体の動きから意識を外して、飛んでくるボールと飛んで行くボールをイメージすることが必要です。
そこでは、飛んで来るボールのイメージによって動きが変わるのは当然ですが、飛んで行くボールの軌道イメージが変わることでボールを打つときの動きが変わりることを確認してください。
でも、そこで大切なのは、運動を変えて飛んで行くボールのイメージに変化を付けるのではなく、その逆で、飛んで行くボールのイメージを変えることで動きが変わるのを感じるという順序です。
これが、実戦に即した対応であり、打ち出す打球の球筋をイメージすることで、その球筋に適した動きが自動的に引き出されるようになります。
素振りの繰り返しは何回やれば良いというのは特に決まっていませんが、基本的には、ボールが飛んできたら自然にそんな動きになってしまうと思えるくらいの回数ということです。
●壁打ちと球出し
素振りで運動連鎖を運動記憶のボックスにしまい込んだら、次に、「壁打ち」と「球出し」です。
なぜ、この二つかというと「失敗しにくいから」です。
壁に当たってハネ返ったボールには伸びや勢いがないので、打ち負けることはないでしょう。
球出しも同様ですが、出されるボールはできるだけ遅いスピードが良いでしょう。
それに対して、実戦に近い状態の打ち合いでは、飛んで来るボールが毎回違うので、それに合わせた運動調節が必要になるため、特定の打ち方だけを繰り返すことができません。
普通の打ち合いでは、飛んで来るボールに身体の動きを合わせることが最重要なので、自分の意思で動くことができないわけです。
ですから、同じ運動を効率良く繰り返すには、できるだけ易しい環境が最適です。実戦的な打ち合いでは、考えたことをやろうとすると失敗する率が高くなるので、成功体験の蓄積が進みにくいのです。
易しい環境では、動きを考えながら打っても何とかなるでしょうし、成功する運動を短時間で効率的に繰り返すことができます。
●「繰り返し練習」と「実戦的なプレー」をハッキリ分けることが大切
こうした、「失敗しにくい環境で同じ運動を繰り返して身体で覚える」というのが打ち方を変える唯一の方法だと思います。
テニスは、無意識的な運動でしか対応できないので、新しい動きを身に付けるには、その運動を無意識化するしかないわけです
そして、こうした練習で一番大事なことは、実戦的な打ち合いになったら「全部忘れる」ということです。
なぜなら、そこで課題を引きずっていたら運動が意識化してしまうので、身体で覚えた努力が無になってしまうからです。
身体で覚えた運動は「運動記憶」のボックスにしまい込んで、そのことについてプレー中は一切気にしないというようにハッキリと割り切ることが必要です。
「繰り返し練習」と「実戦的なプレー」では、取り組み方をハッキリ分けることが大切で、ゴチャ混ぜにすると練習の成果が消えてしまうでしょう。
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