結論!テニスは反射で打つ
結論!テニスは反射で打つ
理由:考えている時間が無い
テニスは考えながら打てるほど
ヒマなスポーツではない
テニスプレイヤーは、ストロークの打ち合いでは3秒くらい、ボレー対ストロークなら2秒ちょっとくらい、ボレー対ボレーでは1秒ちょっとくらいの間隔で繰り返し打たなければなりません。
さらに、相手が打ってから自分が打つまでに使える時間はこの半分くらいなので、実際問題として、相手の打ったボールを見ながら「これはどうやって打とうか」などと考えていたらボールが通り過ぎてしまいます。
そのため、このような瞬時の対応が短時間に連続的に求められる中では、反射的に対応するしかないというのが現実なのです。
毎回違う動きで対応
さらに、テニスは飛んで来るボールを打ち返すスポーツなので、飛んで来るボールのスピード、コース、回転の状態などが毎回異なり、打点の高さも毎回変わります。
そのため、プレイヤーはボールに合わせて毎回違う動きでボールを打たなければなりません。
その上、同じ高さで打つ場合でも、そのボールが上昇中なのか下降中なのかによって、面の向きやスイングの方向を変えなければ同じところに飛びません。
しかも、ただ返すだけでなく、ゲーム中は状況に応じて打球を打ち込むべきところが変わるので、その狙ったところにボールが飛ぶようにスイングしなければなりません。
こうした複雑な対応を瞬時にやらなければならないので、反射的な対応に頼るしかないわけです。
この辺のことをもう少し詳しく知りたい方はこちら↓
自覚がないことが反射の証明
テニスプレイヤーは、自分が毎回違う動きでボールを打っていることについては「言われてみればそうだなぁ」くらいで、しっかり自覚していないことが多いのですが、これは、ボールに合わせた動きの変化が無自覚、無意識的に行われていることの証明です。
反射的に動いているときには、頭で考えて動きを決めた記憶がないので、毎回動きが変わってもそういう自覚が生まれにくいわけです。
毎回柔軟に変化する動き=安定したショット
でも、間違いなく言えるのは、毎回動きが変わらないと安定したショットが打てないのはもちろんんこと、それ以前にボールがまともに当たりません。
ですから、フォームを気にする方が陥りがちな「安定したフォーム=安定したショット」は誤解で、実際には「毎回柔軟に変化する動き=安定したショット」なのです。
適切な反射の3条件
瞬時の対応が連続的に求められる中では反射的に動くしかないのですが、その反射的な動きがその場その場の状況に適した動きでないとミスに直結します。
そして、適切な反射運動を連続的に成功させるために満たすべき条件が3つあります。
1.身体で覚える
2.ボールを正確に把握する
3.適切な反射が起きるようなラケットを選択する
1.身体で覚える
テニスプレイヤーは、打ち合いが続く限り、
1.飛んで来るボールを見ながらそれを打ち返せるところまで移動する。
2.打つ前のボールの状態がどうなるかを予測してそれに合う動きを選択する。
3.その上で、打球を目的のところに打ち込むのに適したスイングを実行する。
という簡単ではない作業を、打ち合いが続く限り3秒くらいの間隔で連続的に繰り返さなければなりません。
ですから、反射で打つと言っても、熱いものに触れたときにパッと手を引っ込めるような単純な反射ではボールは打てません。
考えなくてもできるようになることが必要
毎回異なる状況にとっさに対応しながらも、それを繰り返し成功させるには、そのための下地作りが必要です。
何も蓄積が無い状態では、難しいことを素早くやるのは無理なので、複雑な動きを反射的に実行できるようになるためには、「身体で覚える」という訓練過程が不可欠です。
考えながらやる時間がない上に、考えてやるには動きが複雑過ぎるので、考えなくてもできるようになることが必要なのです。
運動パターンの蓄積
この「身体で覚える」という過程は、いろいろな動きのパターンを蓄積することです。
身体の中に「テニスの運動」という箱があって、繰り返しやった運動はそこに動きのパターンとして長期的に蓄積されるとイメージしてください。
実際には、脳の中に運動の記憶を貯め込む部分(小脳や大脳基底核)があって、そこに運動パターンが記憶されると、思考が関与しなくても必要に応じてきちんと実行される仕組みになっています。
歩いたり走ったりするときに左右の手足の動きをいちいち考えなくて済むのは、この仕組みのおかげです。
上達への近道は無い
テニスは毎回違う動きでボールを打たなければならないので、数え切れないくらいたくさんの運動パターンを蓄積する必要がありますが、そのためにはさまざまな状態のボールを数え切れないくらい打たなければなりません。
なので、上達への近道は無いわけです。
2.ボールを正確に把握する
ボールを打ち返すときのいろいろな動きを「長期記憶」として「テニスの運動」という箱に溜め込んだら、次にやることはボールをよく見ることです。
「ボールを正確に把握する」なんて言うと「当然、見なきゃ打てないだろう!」と叱られそうですが、その見え方のレベルの問題なのです。
高速で移動中のボールをハッキリ見るのは予想以上に難しいので、「一応見えている」程度で打っている方が実際問題として少なくないようです。
黄色いボヤッとしたものというような把握と、打つ前にボールのフェルトの毛が見えるのとでは、プレイヤーの反射の精度に大きな違いが生まれます。
高度なタイミングコントロールが必要
テニスは動いているボールを打つスポーツですが、その動きは意外に速く、飛んで来たボールがコートで弾んで遅くなってからでも、1秒間に10mくらい動きます。
ボールを打つときにインパクトのポイントが10cmもズレれば勢いのある打球になはらず、狙ったところに打ち込むのも難しくなりますが、そのズレを時間になおせば0.01秒くらいです。
そして、ショットを成功させるには、適切なところまで移動することも含めたいろいろな準備動作が必要で、ラケットスイングだけでも、そのスタートからインパクトまでの時間は1秒くらいかかリます。
つまり、インパクトの1秒前くらいからテイクバックをスタートしなければならないのですが、その間にも相手のボールは動き続けているので、そのボールが打つ前にどんな状態になるのかを予測して、そのボールの動きと、1秒前から動き始めたラケットヘッドとの出会い時間の誤差を0.01秒以内にしなければなりません。
そのためには、かなり高度なタイミングコントロールが必要です。
そして、正しいタイミングより0.01秒遅いと打球がアウトする確率が上がり、0.01秒早いとネットする確率が上がリます。
精度の高いタイミングコントロールを3秒間隔で連続的に成功させるためには、少なくとも、ボールの動きがクリアに見えていることが必要です。
3.適切な反射が起きるようなラケットの選択
運動の最終的な出口はラケット
プレイヤーの運動はラケットを通じてボールに伝えられますが、伝わり方はラケットによって異なるので、使うラケット次第でショットの結果は変わります。
同じスイングをしても飛びやすいラケットではアウトになりやすく、飛びの悪いラケットでは打球が短くなったりネットしやすくなったりするわけです。
ショットの結果はプレイヤーにフィードバックされる
そして、そうしたショットの結果は即座にプレイヤーにフィードバックされて打ち方が変化します。
アウトしたら飛びすぎないように、ネットしたら短くならないように打ち方が変わるわけです。
テニスプレイヤーであれば誰でも例外なく同じミスを何度も繰り返したくないので、ショットの結果は毎回プレイヤーの動きにフィードバックされます。
でも、ここまで書いてきたようにボールを打つ運動は反射なので、プレイヤーが意識的に打ち方を修正するわけではありません。
失敗しないように打とうとするのはテニスプレイヤーの無意識的な本能なので、失敗したら、それが繰り返されないように打ち方が変わるのですが、その変化はプレイヤーの決断によるものではなく反射運動の無意識的な変化なので、知らないうちに変わってしまうという仕組みです。
意識的な修正はやりすぎを生みやすい
もちろん、次は失敗しないようにと、プレイヤーが意識的にスイングを調節することもあるのですが、そうしたスイング調整はやりすぎが起こりやすく、ネットとアウトを行ったり来たりというような状態に陥る可能性があります。
プレイヤーの思いとフィードバックは相容れない
そして、「プレイヤーのこうやって打ちたいという思い」と「知らないうちに変わってしまう仕組み」がぶつかる場合は、ボールを打つたびにフィードバックも毎回欠かさず発生するので、プレイヤーがいくら努力してもフィードバックによってすぐに元に戻ってしまうという堂々巡りが繰り返される結果になります。
打ち方を直そうとしてもなかなか直らないケースが多いのはこういう仕組みです。
フィードバックを機能停止にする方法
このように、フィードバック機能がジャマして自分の「こうやって打ちたい」という思いが実現できないときに、どうしてもその思いを実現したいのであれば、あまりおすすめしませんが、フィードバックを機能停止にする方法があります。
その方法とは「ショットの結果を一切見ない」というものです。
ショットの結果を見るからフィードバックが発生するので、結果を見なければその機能が停止します。
ですから、結果を気にしなければ自分がやりたいようにラケットを振ることができるはずです。
でも、この方法をあまりおすすめしない理由は、その状態ではたとえ自分のやりたいように打てても、打球がコートに入らずに相手にポイントを与え続けることになることが容易に想像できるからです。
逆に言えば、結果を気にするから、そのフィードバックによって打ち方が矯正されて今の自分の打ち方になったわけなので、それを自分の意志だけで変えようとしても無理ということです。
変な打ち方の原因
ですから、自分の変な打ち方を直そうとしている方は、その変な打ち方の原因がどこにあるのかを見極めてから改善の努力をスタートするべきです。
なぜなら、変な打ち方の原因がラケットにある場合は、先述したように打ち方を直そうとする自分の努力と、そのラケットで打ち出されたショットの結果がもたらすフィードバックが、終わりのないケンカをし続ける状態に陥るからです。
飛びすぎるラケットで飛びを抑えようとして腕が縮んでいるときに、それを努力だけで改善しようとしても良い結果は出ないでしょう。
飛ばないラケットで力んで打っているプレイヤーが力を抜こうと努力しても、それで良いショットが打てるようになる可能性はあまり高くはないでしょう。
自分は動きを変えていない⇒ラケットの影響はない
テニスではショットの結果の許容範囲が狭いので、どんなラケットに持ち替えても、何回か打てば打球がその範囲に収まるようになる(そうならないとゲームが成立しない)のですが、その結果だけを見て「ラケットなんてどれを使っても大した違いはない」と考えてしまうことが多いようです。ですが、これは誤解です。
ラケットを持ち替えても同じ深さに打ち込めるようになったときに、ラケットの性能に大きな差がないと考えるのは誤りで、ラケットの性能の差をプレイヤーの運動変化で埋めてしまったと考えるのが正しいでしょう。
ただ、その運動変化は反射の変化なのでプレイヤー自身には自覚がありません。
なので、「自分は動きを変えていない⇒ショットの結果も同じ⇒ラケットを持ち替えても影響はない」と考えてしまうようです。
適切な反射が起きるラケットを選べば良い
このように、プレイヤーの運動は使うラケットの影響を強く受けるのですが、ラケットの影響で起きた反射の変化はほとんど自覚できないので、それが良い変化でも悪い変化でもプレイヤー自身が気づくケースはあまり多くありません。
こうした仕組みなっているので、プレイヤーは自分が使っているラケットが自分に合っているかどうかを自分で判断するのはとても難しいわけです。
最初に書いたように、テニスはとても忙しいスポーツなので、「自分の身体の動きはどうかな?」などと思ったとたんにミスで打ち合いが途切れてしまうでしょう。
客観的に観察すれば違いは明白
でも、ラケットを持ち替えたときの動きの変化は外から見れば明白です。
ですから、プレイヤー以外の人間が観察すれば動きの違いを見分けるのは比較的容易です。
ご自分が試打している姿を撮影して後で確認しても、合うラケットと合わないラケットでの動きの違いはわかるはずです。
(ただ残念ながら、合わないラケット同士をいろいろ打ち比べても、その違いはわかりにくいでしょう。)
結論は、自分に合うラケットを見つけるには、自分以外の人に観察してもらうしかないということです。
そして、余計な力みが減ってフットワークのドタバタ感が消えて、打球の勢いが増して球筋が安定するようなラケットを見つければOKということです。