合わないラケットを好んで使う仕組
合わないラケットを
好む傾向がある
テニスワンでは、これまで10,000名以上の方々にラケットフィッティングを実施してきましたが、その経験を通して不思議な事実を把握しています。
それは、「合わないラケットを好んで使い続けている人がとても多い」ということです。
合わないラケットを、そうとは知らずに使っているという方も多いのですが、それ以上に、合わないラケットをわざわざ好んで使っている方がとても多いのです。
こんなことを書くと「好きで使っているんだから良いじゃないか」と言われそうですが、確かに、「好きなラケットでプレーすること」が目的であればそれで良いのですが、そうではなくて、勝とうとしてプレーいるのであれば、「そのラケットでは勝ちにくいでしょ!」と言わざるを得ないケースが多いのです。
そして、「勝ちにくいラケットをわざわざ選んで使うようになる仕組み」もわかってきましたので、それについて説明させていただきます。
芯に当たれば手応えがない
テニスラケットには、ボールを打ったときの手応えが最も小さくなる場所があって、そこは「スイートエリア」とか「スイートスポット」などと呼ばれています。
そこにボールが当たったときは、小さい手応えで打球が勢い良く飛んでいきます。
「スイートエリア」から少し外れたところにボールが当たるのは「オフセンターヒット」と呼ばれており、スイートエリアに当たったときより打球衝撃が強くなって、その分、ボールの飛びが少し悪くなります。
そこよりさらに外れたフレーム部分にボールが当たるのは「フレームショット」と呼ばれており、打球衝撃はさらに大きくなって、ボールの飛びもさらに悪くなります。
(ボールがフレームにも当たらない場合は「空振り」と呼ばれ、打球衝撃は全く感じないのですが、その代わりに、空振りをしたプレイヤーが受ける精神的な衝撃が大きくなります。)
インパクトで生まれる「手応え」は「伝達ロス」
このように、「打球衝撃の大きさ」と「打球の勢い」は反比例の関係にあって、打球衝撃が小さいほどボールは勢い良く飛んでいきます。
打球衝撃が小さくて打球の勢いがあるということは、言葉を換えると、プレイヤーの運動が効率良く打球に伝わったということで、これが「伝達ロスが少ない状態」ということです。
反対に、「手応えがある=打球の衝撃が強い」ということは、ボールが飛んでいくためのエネルギーがインパクトでの衝撃発生によってムダに消費されてしまうため、その分、飛んでいく打球の勢いが減少してしまいます。
ですから、「打球衝撃が大きい=伝達ロスが大きい」ということで、「伝達ロスが大きい⇒プレイヤーの運動が打球にうまく伝わらない⇒勢いのない打球になる」という図式です。
手応えがあればあるほど、打球の勢いは弱くなるということです。
ラケットによっても違う打球衝撃
このように、インパクトポイントがスイートエリアから外れると打球衝撃が大きくなるのですが、打球が同じようにスイートエリアに当たっても、使用するラケットによって打球衝撃の大きさが異なります。
個々のラケット毎の特性によって打球衝撃の大きいものと小さいものがあるわけですが、打球衝撃が大きい場合は打球に伝わるエネルギーがロスするので、その分、打球の勢いが弱くなる、という仕組みについてはオフセンターヒットと同じ理屈です。
なぜか打球衝撃が大きいラケットを好む
ですから、打球衝撃の大きいラケットはプレー上は損ということになるのですが、現実的には、そういうラケットを好んで使う方がとても多いということが、これまでのフィッティング経験からわかっています。
実際に、テニスプレイヤーの中にはボールを打ったときの手応えをわざわざ感じ取ろうとしている方が意外に多く、「手応えがないと打った感じがしない」という話をよく伺います。
そういう方は「打った感じがしないラケット=ダメなラケット」と考えています。
力を入れて打つ
こうしたケース以外でも、特に手応えを求めているわけではないけれど、「力を入れて打とうとしている」という人はかなり多いようです。
でも、力を入れるのは、そこに何らかの「力を入れる対象」があるからで、それはつまり、知らないうちにボールインパクトの手応えを予想しているということです。
なぜなら、力を入れて壁を押すことはできますが、力を入れてカーテンを押すことはできません。
力を入れるためには、それに見合う抵抗が必要で、何の抵抗もないところに対して力を入れることはできないからです。
ですから、力を入れて打とうとする人は、ボールから受ける手応え(抵抗)を予想して、それに対して力を入れて打っているということで、入れる力が強ければ強いほど、強い手応えを求めているということです。
インパクトで手応えが発生することが前提になってしまっているわけです。
達成感がある
そして残念なことに、「手応えがあったほうが満足感を覚える」という傾向が多くのプレイヤーにあるようです。
仕事と同じで、自分のやったことに手応えが感じられると達成感のようなものが生まれ、それに快感を覚えるようになるようです。
力を入れて一生懸命やっている感じがして、しかも、そこに手応えが感じられるので、それを「良い状態」だと勘違いしてしまうケースがとても多いわけです。
「手応えがある=打球にパワー伝わっていない」ということなのですが、「手応えがある=伝達ロスがある」という状態をプレイヤー自身が歓迎してしまうと、そこから抜け出すことが難しくなります。
他のスポーツではあり得ない感覚
テニスと同じように道具でボールを打つスポーツにはゴルフや野球などがありますが、それらのスポーツのプレイヤーにとっては、インパクトで手応えを求める感覚はおそらく信じられないでしょう。
なぜなら、最高のインパクトとは「打った感じがしなかった」という状態だということを彼らは知っているからです。
最も軽い手応えのときに打球が最も良く飛ぶことを経験的に理解しているわけです。
結果に関心がない
それではなぜ、テニスプレイヤーだけが手応えを求めるのでしょうか。
それはおそらく、ショットの結果についてあまり関心を持っていないせいだと思われます。
どういうことかというと、ゴルフや野球では「手応えの違い=飛距離の違い」という理解がありますが、テニスの場合は飛距離については厳しい制限があるため、打球の飛距離には大きな違いが生まれにくいということがあります。
ゴルフや野球のプレイヤーは基本的に飛距離が欲しいので、手応えがないときに飛距離が出たという経験を通じて「手応えが無いことは良いことだ」という認識を持つわけですが、テニスプレイヤーは基本的に飛距離が出すぎるのを嫌うため、「手応えが無いことは良いことだ」という認識を持ちにくいようです。
テニスの場合は手応えがないときに飛距離が出てしまうと、それは「アウト=失敗」ということですので、手応えがないことを歓迎する気持ちになりにくいわけです。
でも、手応えのないインパクトのほうが間違いなく打球の勢いは出るのですが、残念ながら、自分の打ったボールの勢いというのは自分では感じ取りにくいので、その違いが分かりにくいようです。
その結果、「ショットの結果=飛距離」には大した違いがないので、打ったときに感じられる打球感のほうに意識が向きやすく、そこで達成感が得られる状態を好むようになると考えられます。
「合わないラケット=良いラケット」という誤解
打ったときに強い手応えが感じられるラケットは「伝達ロスの大きいラケット」であり、自分のスイングパワーが打球に伝わらずにムダになってしまうラケットです。
そういう意味で「手応えのあるラケット=合わないラケット」です。
でも、力を入れて強い打球を打とうとしている人は、手応えのあるラケットが良いと考えています。
つまり、「手応えのあるラケット(=合わないラケット)=良いラケット」という誤解です。
フレームの選択だけでなく、ガットの張り方を決める際にも、しっかりした手応えが感じられるように調整しているケースがよく見受けられます。
わざわざ、自分のスイングパワーが打球に伝わらないように調整しているわけです。
その結果、力を入れて打つことで力のムダ使いをして、戦力的に不利な状況でプレーをすることになります。
もし、力を入れて打っているという自覚があったり、手応えを求めて打っているという気がしていたら、「伝達ロス」という言葉を思い出してください。
「もしかすると、手応えの好みを優先することでプレー上は損をしているのかもしれない」という疑いを持つことで、戦力アップが実現するかもしれません。
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