工夫してもフォームは改善しない
テニスのフォームを工夫しても
フォームは良くならない?
こんなことを書くと多くの方からお叱りをいただきそうですね。
上達を目指して日々「フォームの改善」に取り組んでいるテニスプレイヤーは多いと思いますが、実は、その努力はあまり有効ではないかも、というのが今回のテーマです。
フォームというのは、文字どおり姿、形ということです。
テニスではこの言葉は「打っているときの身体の動き」を指しますが、フォームが良くなることが、すなわち、上達することだと考えている方が実際には多いのではないでしょうか。
「できないことができるようになるためには、そのやり方を学ばなければならない。」
「正しいやり方=フォームを学ぶことが、正しいショットが打てるようになるための条件だ。」
というような考え方が一般的だと思います。
ですが、ことテニスに関しては、それをそのまま当てはめると、ぶ厚い壁にぶち当たることが多くなります。
フォームを気にしているプレイヤーの多くが、ボールの動きと体の動きがリンクしていないという状態に陥っています。
きれいなフォームだけど、飛んでくるボールと合っていないという状態です。
その原因は単純で、プレイヤーの注意が体の動きに向いているので、ボールの動きに対する注意力が低下してしまうのです。
テニスでは飛んでくるボールのコースや回転量、高さ、弾んでくる角度など、一回一回すべて異なりますが、フォームに注意が向いている方は、どんなボールでもすべて同じフォームで打とうとしていることが多いのです。
大きく振り抜こうと意識しているプレイヤーは、どんなボールでもフォロースルーの大きさが同じだったりします。
極端なケースでは、ショートラリーでもストロークと同じフォロースルーだったりします。
一球ごとに異なる状態のボールを打ち返すためには、プレイヤーのフォームは微妙な調整も含めて、一球ごとに変わる必要があります。
どんなスピードのボールをどこに打ち込むかによってもフォームは変わります。
プレー中のショットの間隔は1~3秒くらいしか有りませんので、飛んでくるボールを見ながら、それに適したフォームを頭の中から探し出して実行するのは、時間的に不可能でしょう。
そのために、いつもワンパターンのフォームをトレースしようとするので、ボールと遊離した動きになってしまうのです。
体操やシンクロナイズドスイミング、フィギアスケートのような、姿・形を追求するスポーツであれば、フォームを意識することは欠かせませんが、球技のように自分以外の何かを動かしてポイントを取るスポーツでは、フォームの追求は良いボールを打つことからズレてしまうことがあります。
良いショットを打ったときのフォームは良いかもしれませんが、フォームを良くすることが必ずしも、良いボール、良いショットにはつながらないのです。
それどころか、姿・形を強く意識してプレーすると、プレイヤーのボールへの集中力が低下してショットの成功率を下げることにつながります。
相手が打ったボールの回転量を把握していないプレイヤーは、バウンド後のボールの変化に対する対応が遅れます。
そういう状態ではフォームをいくら注意しても、安定して打ち返すことは不可能でしょう。
オートバイレースなどで、倒れそうなくらいにバイクを寝かせてコーナーを回るシーンがよく見られます。
素人目にはそれがかっこよく映るのですが、ライダー自身はバイクをどれくらい傾けようかなどとは考えていないでしょう。
その時のスピードで、そのコーナーを安全にクリアするための傾きに結果的になっているだけだと思います。
ところが、素人がその傾きの角度だけをイメージして普通のバイクでコーナーに入ったら、実際のスピードが合わないのでコケてしまうでしょう。
姿・形をイメージするというのはこういうことです。
トッププロの連続写真を見て、目指すスイングやフォームをイメージする方は多いと思いますが、これと似たことになる可能性があります。
つまり、トッププロと同等の打球スピードと筋力を持ち合わせていないのに、目に見える形だけ同じにしようとすると、どこか不自然だったり、合理的でなかったりするわけです。
サッカーのゴールキーパーが見せるダイビングキャッチは誰が見てもカッコイイと思うのですが、キーパーがその動きをイメージして、「こうやって飛ぼう」などと考えながらPKに臨んだら、ボールに触ることもできないでしょう。
姿・形は、何かをやったときに自然と付いてくるもので、姿・形のイメージが最初にあるわけではないのです。
フォームを直そうとするのではなく、フォームが直るようにしなければならないのです。
「なんだそりゃ?」と言われそうですが、この発想転換ができないと、無駄な練習の繰り返しから抜け出すことができないでしょう。
つまり早い話が、「悪い動きは元から絶たなきゃダメ!」なのであって、表面上に出ている症状(フォーム)をアレコレいじってもダメなのです。
「フォームが改善すれば良いボールが打てるようになる」のではなく、「良いボールが打てていれば、そのときのフォームは良くなっている」と考えたほうが現実的です。
私どもはラケットドックで、本人のラケットがその「悪い動きの元」になっている例を多く見てきています。