ラケット選びに知識は役に立たない
テニスラケットについての知識は
あまり役に立たない!?
テニスプレイヤーなら、誰もが一度は、自分に合ったラケットを手にしたいと考えたことがあるのではないでしょうか。
ですが、それに真剣に取り組もうとすると、そこから一挙にラケットの研究に入ってしまうようです。
そしてカタログやネット、専門誌などで情報を得ようとしても、なかなか満足できるものが見つからないで、イライラしている方も多いのではないでしょうか。
そんな方に私は言いたい。
「自分に合うラケットを見つけるためにラケットについて知ろうとすることは無駄です」と。
多くの方の反感を買いそうな言い方ですが、その理由についてこれから述べます。
「自分に合ったラケット」という以上、「自分」という要素の分析が大切だと思うのですが、そこを掘り下げる方がほとんど居ないのはなぜでしょうか。
たぶん、よく分からないからだと思います。
プレイヤー自身が自分のプレー内容を詳しく分析して、その特性を把握するというのは、言葉では言えますが実際には非現実的です。
「自分のプレー上の特性を包括的にかつ詳しく述べよ」なんて言われても、まともに答えられる方はほとんど居ないのではないでしょうか。
プレイスタイルという簡単なワクにはめてしまうことはできますが、そんなもので人を分類できるほど単純ではないということは、多くの方が分かっているでしょう。
唯一「自分」というものが発揮できるのが「打球感」だと思います。
これは自分の身体に伝わる感覚ですので、間違いなく誰もが感じられます。
ただ、よく考えれば、身体に伝わる打球感が好きかどうかということと、そのラケットが自分に合っていて最高のプレーをさせてくれるということとは、全く別なことだということが分かります。
つまり、打球感が好きか嫌いかということと、そのラケットで勝てるかどうかということは全く別なことなのです。
多くの方が「打感の好き嫌いとラケットの知識」をより所にして、ラケット選びを考えるわけですが、その両方とも根拠としてはあまり頼りにならないのです。
ラケットについてよく知っているということは、自分のラケットを選ぶ上ではあまり役に立ちません。
これは私自身の実体験です。
私はラケットを販売する仕事に30年近く携わっており、テストしたラケットは数知れずという経験上、当然、人よりラケットについては詳しいと自負しています。
そんな私が実際にラケットドックでフィッティングを受けてみました。
結果として、谷口コーチの選んだラケットは私が選んで使っていたモデルではなく、また候補として考えていたラケットでもありませんでした。
その結果に釈然としない私は「なぜそのモデルなの?」という質問を危うく発するところでした。
この質問はラケットドックの参加者から、自分の期待や予想と異なるモデルが選ばれたときによくいただくものです。
それに対して谷口コーチは、「プレーの良し悪しを判別して告知しているだけで、なぜそのモデルで良い結果が出たのかは厳密には分かりません。あなたの身体が選んだのです。」と答えるのですが、主催者側の私が自分でも同じ質問をしてしまうところだったわけです。
この経験で得たものは、「ラケットについてどんなに知っていようと、自分のプレーを客観的に把握していなければ、自分に合うラケットを選択することはできない」というごく当たり前の結論でした。
一生懸命ボールを打ち合っている中で、その時の自分の動きに現れる変化を客観視できるプレイヤーはまれでしょう。
人に見てもらったほうがずっと簡単です。
一般人より、プレー上の身体感覚でずっと優れていると思われるトッププロでも、ラケットの選択やセッティング変更はコーチやヒッティングパートナーに見てもらうのですから、一般人は言わずもがなというところです。
ちなみに、谷口コーチからベストフィットとして告知されたラケットを実際に使ってみてどうだったかと言えば、結果は「GOOD!」です。
前のラケットにずうっと有った違和感というものは、それが無くなってスッキリしてから初めて、その存在に気がつくということがあります。
重荷はずっと背負い続けていれば分からないのですが、それが取れて解放感を感じたときに、それが有ったことが分かるのです。
販売する側としては大きな声では言えないのですが、はっきり言って、このモデルは私の好きなタイプではなかったのです。
今でも好きというわけではないのですが、好き嫌いという対象から外れてしまった感じです。
何より、ラケットについてあれこれ考えることが無くなりました。
また、ピッタリフィットした状態を一度身体で覚えると、それよりちょっとズレた状態も敏感に分かるようになり、ミスショットの原因が自分にあるのかラケットにあるのかを明確に区別できるようになりました。
タイミングミスがないインパクトで、アウトしたりネットしたりするのは、ラケットのセッティングがその状況に合っていないということです。
もちろん、それまでもラケットの反応については人一倍敏感なつもりでしたが、ほんの少しの面圧差でも、どれが合っているかをはっきり選別できるようになりました。
メインのセッティングに対して少し硬いもの、少し柔らかいものを全部で3本用意して普段はプレーしていますが、日によってベストのものが変わります。
少しの気温差でも、飛びの差がはっきり出ることが体感できます。
コントロールしようとせず、無心に打って深さが揃う状態がフィットしている状態で、その状態を身体が覚えているので、そこから外れた状態に対して敏感になります。
その感覚をベースに言えることは、夏と冬ではフィットする面圧は5ポイント以上差があります。
春夏秋冬、同じ硬さで過ごす方は、シーズンごとに違うスイングをしているわけです。
何はともあれ、ラケットについての豊富な情報量は、自分にフィットするラケットを見つけ出すためには、あまり役に立たないということは明らかです。
なぜなら、自分のプレーや身体の特性についての情報が無い状態では、ラケットの情報を生かしようがないからです。
そして、自分のプレーや身体の特性が分からない以上、ウェアを試着してみるのと同じように、合わせてみてその結果で判断するしかないということです。それがラケットドックです。