合わないラケットがもたらす不利益
合わないラケットがもたらす不利益について
合わないラケットは、プレイヤーの戦力を低下させて勝ちにくくします。
でも、そうした「ラケットがもたらす悪影響」が具体的にどんなものなのかを知っていれば、プレー上の問題について正しい把握が可能になり、見当違いの努力をしなくて済むかもしれません。
合わないラケットがもたらすプレー上の不利益とは以下のようなものです。
- 失敗の確率が高くなる
- 打球に威力がないので戦力的に不利
- 運動効率が悪いので疲れやすい
失敗の確率が高くなる
適切な深さの範囲は意外に狭い
テニスは、ネットを越えて相手コートという限られた範囲内に打球を打ち込むスポーツで、打球がネットしたり、範囲外に飛んで行ったりすると対戦相手が喜び、こちらはポイントを失います。
テニスのプレーの基本となるベースラインからのストロークの打ち合いでは、こちらの打球が相手コートのサービスラインとベースラインの間に着地していれば一応適切な深さと言えるでしょう。
こちらの打球がサービスラインの手前に落ちると、その後の展開が不利になることが多いので、サービスラインを越えるのが望ましいわけですが、その具体的な数値は以下のとおりです。
こちらのベースラインから相手コートのサービスラインまで:18.29m
こちらのベースラインから相手コートのベースラインまで:23.77m
つまり、こちらの打球が18m以上飛んで、なおかつ、23.5m以上飛ばなければ良いということですが、適切な深さの範囲は意外に狭いと感じませんか。
サービスラインとベースラインの中間点までの飛距離が約21mですので、その飛距離に対して±2.7mが許容範囲ということです。
調節感ゼロで適切な深さに飛ぶラケットがあれば
打つときに、特にスイングを調節せず、何も考えずに適当に振ったときに、こちらの打球が適切な深さ、つまり、相手コートのサービスラインを越えてベースラインの手前に着地するラケットを選んでおけば、同じことを何度か繰り返したときに動作の狂いが少ないと思われます。
そのラケットで打つ際にはスイングを調節していないので、調節の間違いが起きにくいわけです。
そうならずに、スイング調節をしない状態で打たれた打球がかなり短くなって、相手コートのサービスラインを越えないような場合は、適切な深さに達するまで、もう少し力を入れて打つ必要が出てきます。
飛ばないラケットを選ぶと、力を入れて打つようになるのです。
逆に、スイング調節をしない状態で打たれた打球が大きく飛んで、相手コートのベースラインを越えてしまうような場合は、アウトを防ぐためにもう少しスイングを抑える必要が出てきます。
飛びすぎるラケットを使うと、少し抑えて打つようになるわけです。
こうしたスイング調節は、ゆっくり時間をおいて単発で行うのであれば、それほど難しくはないのですが、テニスの実戦では、コート上を走り回りながら、だいたい3秒前後の間隔で繰り返し打つことが要求されます。
ですから、プレー中はとても忙しいわけで、そういうときに微妙なスイング調節をしなければならないラケットでは、プレイヤーの神経がスリ減ってしまいます。
合わないラケットは深さのコントロールが難しい
そして、忙しいときに、微妙な調節が必要な作業を何度も繰り返すと間違いが起きやすくなります。
飛ばないラケットで力を入れて打っている場合は力の入れすぎが起きやすくなり、飛びすぎるラケットで抑えたスイングをしている場合は抑えすぎが起きやすくなります。
その結果、飛ばないラケットを使うと力を入れすぎてアウト、飛びすぎるラケットを使っていると抑えすぎてネットというように、ラケットの性能特性とは反対の結果が出るようになります。
そしてさらに、そうしたアウトやネットが出ると、プレイヤー自身が反省して、再発防止のために打ち方を修正するので、今度は逆に、その反対のミスが出やすくなります。
アウトを防ごうとしてネット、ネットを防ごうとしてアウトというように、試行錯誤の繰り返しのような状態に陥ります。
ということで、飛びの合わないラケットを使っていると、飛びが良くても悪くても、ネットとアウトが交互に出やすくなるという点で、出る症状が両方とも同じになるわけです。
失敗が多いのはプレイヤーの責任!?
狙った深さに打球を打ち込もうとしたときに、気持ち良く振り抜くことができずに、手先でコントロールしている感じがあったら、使っているラケットの基本的な飛びが合っていない可能性あります。
腕に変な力が入っていたり、手首をこねたり、スイングがギクシャクしている感じがあったりしたら、それはアウトやネット等のミスを防ごうとするときに発生する調節行為であり、基本的にはラケットが合っていないせいで起きることです。
打球の深さが安定しないのは練習不足が原因だと思われることが多いのですが、実際には、ラケットが合わないせいで試行錯誤の繰り返しのような状態になっている、ということが原因であるケースも少なくないのです。
そして、そういうケースでは、いくら練習を重ねても、なかなか球筋がまとまらないでしょう。
コートの上を走り回ってラケットを振ってボールを打っているのはプレイヤーなので、全てのショットの責任はプレイヤーにあって、全てのミスの原因もプレイヤーの誤作動にあるのですが、ラケットの不都合をカバーしようとすることがプレイヤーの誤作動につながっている場合は、プレイヤーだけに全ての責任を押しつけてしまうのはちょっと酷かもしれません。
大胆、かつ、シンプルにスルッと振り抜くことができず、インパクトでいつも何かをやっている気がしているのであれば、失敗の確率が高いのはそのラケットのせいかもしれません。
打球に威力がないので戦力的に不利
骨折り損のくたびれもうけ
合わないラケットは、プレイヤーの運動を打球に伝えるときの伝達効率が悪いので、強い運動をしてもそれがうまく伝わらずに、打球の勢いが出にくいという傾向があります。
ハードヒットしている割に打球がハードにならないという症状です。
「ハードヒッター」とは、基本的に「ハードなボールを打つ人」のことであり、「ハードな運動でボールを打つ人」のことではありません。
ですから、いくら運動がハードでも、打球がハードでなければハードヒッターとは言えないわけで、身体全体に力をみなぎらせて打っているかどうかより、高速で伸びのある打球が出ているかどうかのほうが戦力的には重要な問題です。
というより、もともと、力を入れて強いショットを打とうとすること自体がラケットが合っていないときの代表的な症状なので、すでにその時点でアウトなのですが、プレイヤー自身は力を入れている割に打球の威力が出ないと、さらに力を入れて打とうとし始める傾向があります。
そして、強い力を入れて打とうとすればするほど伝達効率は下がる傾向があり、「骨折り損のくたびれもうけ」状態になります。
打っている本人は「力を入れてガンガン打っている」という満足感が得られるのですが、なぜか相手はミスをせず、けっこう厳しいところに打ち込まれてしまうというのが、この状態に陥っているときの症状です。
相手の打球の勢いはこちらの打球次第で決まる
こちらの打球が相手コートで弾んだときにどれくらいの勢いが残っているかによって、相手側の打ち返しやすさが変わります。
初速がいくら速くても、弾んだ時点でおとなしくなってしまうような打球は、相手からするとどこにでもコントロールしやすいので、厳しいところを狙って打ち込むことができます。
初速ではなく、後半の伸びの問題ということです。
これを逆から見ると、相手から厳しい打球が打ち込まれたときは、その前のこちらの打球に伸びがなく、どこにでも簡単に打ち込まれてしまうような状態だったということです。
相手の球筋によってこちらの打球の勢いがわかるわけです。
逆に、こちらの打球が相手コートで弾んだあとに伸びと勢いがあれば、相手の返球のコースは甘くなり、勢いもなくなり、イージーミスが出るようになります。
相手の厳しい打球をきちんと返す練習も必要でしょうが、こちらの打球に威力があれば、その練習の必要性が少し減るかもしれません。
そして、打ち込まれた打球に対処する方法を磨くより、相手から打ち込まれない打球を打つ方法を磨いたほうが、根本的な対処方法だと言えるでしょう。
シコルのはラケットのせい!?
こちらから攻撃的に打ち込むことをせず、相手から打ち込まれた打球をとにかく打ち返し続けるという守備的なプレースタイルのことを「シコル」と呼んでいますが、そうした、守備的なゲーム展開になってしまうのは、プレイヤー自身の性格や能力の問題ではなく、ラケットの問題である可能性も考えられます。
それは、こうした仕組みのようです。
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- 打球に威力がなく攻撃性が低い
- ⇒威力がないから打ち込まれる
- ⇒打ち込まれると返すだけの対応になる
- ⇒返すだけの返球はさらに打ち込まれる
- ⇒たまにこちらから無理に攻撃しようとするとミスが出る
- ⇒あきらめて守備に徹するようになる
この場合、一番最初の「打球に威力がない」ことが「シコル」というプレースタイルの入り口になっているわけですが、もしかすると、ラケットが合わないせいで打球に勢いが出ないという可能性も考えられるわけです。
「無理に攻撃しようとするとミスが出る」というのも、合わないラケットによって「力を入れて強く打とうとする」という状態に陥っているのであれば、当然の結末ということです。
無理に攻撃しなくても、こちらの打球の威力がほんの少し上がるだけでゲーム展開がガラッと変わります。
その辺の違いをラケットの変更などで実感できれば、プレースタイルが変わるキッカケになるかもしれません。
ただ残念なことに、守備的なプレースタイルを身上としている人ほど、ラケットのパワーは不要だと感じているようで、わざわざ飛びの悪いストリング設定にしているケースがよく見受けられます。
守備的なテニスが悪いわけではありませんが、使っているラケットの特性によって知らないうちにそのプレースタイルに追い込まれてしまっているのであれば、それはちょっと不幸だと言えます。
力がなくても強打はできる
守備的なテニスになってしまう原因の一つには「自分はパワーがないから」という自覚があるようです。
でも、そのあきらめは見当違いかもしれません。
「力を入れて打とうとしても、その力はボールには伝わらない」ということを、これまで何度も書いてきましたが、力を入れても強い打球にならないということは、見方を変えれば、強い打球を打ち込むのに必ずしも強い力は必要ではないということです。
簡単な例では、大人の男性より強い打球が打てるジュニアプレイヤーはたくさん居ますが、筋力で打球の強さが決まるのであれば、こうしたことはあり得ないはずです。
強い打球は強い筋力で打ち出されるわけではなく「速いヘッドスピード」という技術なのですが、その技術のベースになるのは、プレイヤーの運動が打球に伝わりやすい「合うラケット」です。
「合わないラケット」で力を入れて打っている限りヘッドスピードは上がりませんが、そうした状態で打球の勢いが出ていないことを、自分のパワーのせいだと考えてしまうのは、もったいない見当違いだと言えるでしょう。
戦力アップの方法を探る際に「打球の威力を上げる」という選択肢を自ら放棄してしまうと、残された選択肢は「コントロール」とか「ミスの少なさ」とかになると思われますが、「打球の威力」という要素が欠けた状態で「コントロール」とか「ミスの少なさ」をいくら磨いても、その後の大きな飛躍は望みにくいのではないでしょうか。
「力がなくても強打はできる」という意識を持って、球威を上げる努力を放棄しないことが戦力アップへの道だと思われます。
運動効率が悪いので疲れやすい
打球の勢いが期待したほど出ないという場合、これまで書いてきたように、プレイヤーの対応は大きく二つのパターンに分かれるようです。
その一つは、勢いが出ていない状態を何とかしようとして運動を強めるというパターンで、もう一つは、打球の勢いを上げることをあきらめて守備的なテニスに徹するというパターンです。
前者の場合は、打つときに身体全体に力が入って「力んで一生懸命打っている」という状態になります。
一打一打の運動負荷が大きくなるので、初めのうちは良いのですが打ち合いが続くとバテてしまいます。
打つことが力仕事になってしまうと長くは続かないわけです。
テニスの試合で勝ち上がるためには、基本的に長時間戦う必要があるため、1000回くらいは平気で打ち続けられる打ち方でないと実戦的ではありません。
力を入れて強打しようとしていると、短距離選手がマラソンを走るような状態になり、中盤からバテてヘロヘロになってしまいます。
後者のように守備的なテニスに徹する場合、こちらがポイントを取るためには、相手がミスをするまで延々と打ち返し続ける必要があります。
その結果、どうしても打ち合いが長くなって体力を消耗しますので、体力面で自信がないと、こうした戦法は選択しにくいと言えます。
合わないラケットで打球の勢いが出にくい場合、打球の勢いを出そうとして力を入れるケースと、打球の勢いはあきらめて守備に徹するケースの二つに対応が分かれるとしても、どちらにも共通するのが体力を消耗するということです。
結局のところ、プレイヤーの運動を打球に伝えにくいラケットを使うと体力をムダに消耗するという、ごく当たり前の結果が待っているわけです。