振り抜きの良さで硬さを決める
ガット張りの適切な硬さは
スルッと振り抜けるか
どうかで判断する
ガット張りの硬さについて「どれくらいが良いのか」と悩んでいる方は少なくないと思われます。
「フレームに表示されている【適正(推奨)テンション】の数値範囲が適正ではない」ということについての理解は広く浸透してきているようですが、「それではいったい何が適切なのか」という答えを見つけるのは簡単ではないようです。
(参照⇒「推奨テンションが適切ではない具体例」)
そこで、このページでは「適切な硬さを見つける簡単な方法」をご紹介したいと思います。
結論を先に言ってしまうと、その方法はとてもシンプルで「振り抜ける硬さに張り上げる」というものです。
別な言葉では、「インパクトでヘッドが走る状態」に仕上げるのが「適切な張上の硬さ」ということです。
「振り抜けるかどうかなどというのは、ストリング・セッティングではなくプレイヤーの技術的な問題ではないか」と思われる方が多いかもしれませんが、ガット張りの硬さが適切でないラケットでは、誰が打っても振り抜けるスイングはできません。
その理由はのちほど説明させていただきます。
「ヘッドが走る」とは
どういうこと
「ヘッドが走る」というのは、インパクトの前後でラケットヘッドの移動速度(ヘッドスピード)があまり変化しないときに生まれる感覚です。
ラケットはプレイヤーが振ることでヘッドスピードが上がりますが、ラケットヘッドが高速で移動しているところにボールがぶつかると、その影響でヘッドスピードは少なからず減速します。
硬式テニスのボールの重さは60gくらいあるので、それがある程度のスピードで飛んで来ると、ピンポン玉を打つときのようにはいかないわけです。
インパクトでボールから受ける抵抗によってヘッドスピードが落ちるわけですが、その抵抗が大きければ減速も大きくなり、抵抗が小さければあまり減速しません。
この、インパクトでボールから受ける抵抗はボールを打ったときの手応えと言い換えることができます。
ですから、手応えが大きいほどヘッドスピードの減速が大きく、あまり手応えがないときのほうがヘッドスピードが減速せずに「まるで素振りのように」振り抜けるわけです。
打球衝撃は伝達ロス
ご承知のように、「打球感を感じないときに打球が良く飛ぶ」というのは、道具でボールを打つスポーツ全般に共通することで、サッカーの直線的なミドルシュートやボクシングのパンチのように、道具を使わずに足や手で直接打つ場合にも言えることです。
蹴った感触が軽かったときに強烈なシュートが生まれ、相手の顔を通り抜けたようなパンチがノックアウトにつながるわけです。
ゴルフでドライバーがよく飛んだときは、まるで空振りしたときのようなインパクト感になりますが、「プレイヤー側のパワーが全部乗って打球が飛んで行ったら、そこで発生する衝撃が小さい」わけです。
この仕組みをテニスの場合で説明すると以下のようになっています。
プレイヤーによって振られたラケットのフェース部分が、飛んで来るボールと衝突した際には、そこで「衝突のエネルギー」が発生します。
その衝突のエネルギーの使われ方が問題で、インパクトの際にラケット側に何かが起きると、そこでエネルギーが大量に消費されてしまいます。
オフセンターヒットやフレームショットで面がブレたりグリップが回ったりすると、それによって衝突のエネルギーが消費されてしまうので、エネルギーが減った分だけボールの飛びが悪くなります。
フレームショットやオフセンターヒットのときの打球がヘロヘロになるのはそういうわけなのです。
さらに、インパクトでプレイヤーが受ける手応え(=打球衝撃)の発生もエネルギー消費の一部であり、それが大きいほどボールの飛びが悪くなります。
ですから、インパクトでラケット側に何も起きずに、プレイヤーが何も感じなければ、エネルギーロスが発生せずにボールが効率良く飛びます。
ボールとラケットヘッドが衝突したことで発生するエネルギーを、ボール側とラケット側で平等に分け合うような状態では、ボールの飛びは悪くなるわけです。
ヘッドが走ることで
生まれるメリット
それでは、インパクトでヘッドが走ると何が良いかということですが、その最大のメリットは球筋を押さえ込むのが容易になることです。
「ヘッドが走る」ということは、インパクトポイントをラケットヘッドが通過する際の速度が速いということで、それによって生まれるメリットは「打球の速さと強い回転の両方が同時に得られること」です。
グリグリとこすっただけの回転では、相手コートで高く弾む打球にはなっても球速は出にくく、前に伸びる推進力も生まれにくいのですが、「振り抜くだけで順回転がかかる状態」になれば「伸びて沈む球筋」が得られます。
インパクトでラケットヘッドが止まるような打ち方でもボールはそれなりに飛びますが、そんな打ち方では順回転がうまくかからないので押さえがきかず、後半に失速する飛び方になります。
振れば振るほど
安定してコートに入る状態
ヘッドが走ることで「振れば入る」「振り抜いたほうが安定する」という状態が手に入れば、緊張する局面でも不安を感じることなく大胆に振り抜くことができるようになります。
大事な試合でビビらずに攻めるためには、「振れば振るほど安定してコートに入る状態」が必要なのです。
振り切ることで球筋を押さえ込む感覚を身につければ、力加減でコントロールしている状態と比べると戦力的に大幅な違いが生まれるでしょう。
インパクトでヘッドが
走るために必要なこと
ボールを打つときのエネルギーロスを最小限にして振り抜くためには、インパクトで発生する打球衝撃を最小限にすることが必要です。
その打球衝撃の発生に影響する要素はいろいろありますが、その中でも特に重要なのが、ボールが直接当たるストリング面の反発状態、つまり、ストリング・セッティングなのです。
ですから、振り抜けるストリング・セッティングとは、打球衝撃が小さいセッティングと言い換えることができるわけです。
そして、それを探すのは特に難しいことではなく、いろいろなセッティングを用意して打ち比べれば良いわけです。
そうは言っても、同じモデルで同じスイングウェイトのラケットをたくさん用意するのは簡単ではないのですが、最低3本くらいあれば何とかなるでしょう。(これでも結構ハードルが高いかもしれませんが・・・)
そして、これは同時に打ち比べないと正確な判断はできないでしょう。
一本のラケットを張り替えながら違う日に打ち比べても、人の感覚は移ろいやすいので、正しい判断が難しいわけです。
具体的には、多くのプレイヤーが「これくらいが下限だろう」と考えているテンションを下回る数値を試されることをおすすめします。
快適な場所は常識外れの意外な数値で見つかるかもしれません。
硬くても柔らかくてもダメ
常識的に考えると、柔らかく張れば張るほど打球衝撃が小さくなると思いがちですが、実はそうではありません。
張りが硬いと「ガツン」という衝撃がありますが、これとは逆に、柔らかいほうに外れると「ズシン」という重さ感が発生します。
インパクトで生まれる打球感は、それが何であっても例外なく「=伝達ロス」なので、それがどんな感覚であっても、その程度に応じて飛びが悪くなります。
ですから、硬くても柔らかくても飛びは悪くなるわけで、「手応え」や「重さ」という打球感を感じれば感じるほど、その影響でスルッと振り抜けなくなります。
ガット張りが適切でない
ラケットでは振り抜けない
このページの最初のほうに書いた「ガット張りの硬さが適切でないラケットでは、誰が打っても振り抜けるスイングはできない。」を分解すると以下のようになります。
ガット張りの硬さが適切でないラケットでは打球感が生まれる
⇒打球感が生まれると、その程度に応じて力が入るようになる
⇒力が入るとヘッドが走らなくなる⇒振り抜けない
適切な張り上げで「インパクトポイントを通り抜けた後にヘッドスピードが落ちていない状態」を獲得できれば「伸びて重い打球」が手に入ります。
スナップバックとの関係
スナップバックとは、インパクトでガットが動くことで食い付きが生まれ、動いたガットが戻ることで打球にスピンがかかる状態のことですが、「硬くも柔らかくもない適切な硬さ」は「スナップバックが適切に機能する硬さ」と言い換えることができます。
なぜなら、張りが硬すぎる場合はインパクトでガットが動かず、柔らかすぎる場合は動いたガットが戻らないからです。
別な観点では、「インパクトでガットが動いて戻る」というバネのようなクッション機能が発揮されることで打球衝撃が軽減されるために、ムダな力みが発生しにくくなるということもあるでしょう。
スナップバックが適切に機能していれば適切な食い付きと適切な順回転が発生するので、シンプルに振り抜くだけで球筋が押さえ込まれる状態が手に入るため、コスった回転では得られない伸びが生まれます。
逆に言えば、適切な硬さに張り上げればスナップバックが適切に機能するので、わざわざスピンタイプのラケットを用意する必要はないのかもしれません。
Click!⇒テニスガット/スナップバックで適切な硬さを判断
「スナップバック」はスピンコントロールに欠かせない機能ですが、これが働くためには適切な硬さに張り上げることが第一です。張上が硬くてガットが動かないとボールが食いつかず、柔らかいとガットの戻りが悪いのでスッポ抜けのアウトが出やすくなります…
硬く張って
飛びを抑えるのはダメ
「打球衝撃は伝達ロス」なので、手応えを小さくすれば飛びが良くなると書いてきましたが、実際問題として、「打球が良く飛ぶのはあまりうれしくない」という方が結構多いのではないでしょうか。
「飛び過ぎ=アウト」というイメージがあるので、飛びを抑えたラケットやストリング・セッティングを好む傾向が、特に、若いプレイヤーには多いようです。
でも、飛びを抑えたストリング・セッティングでコートに入っている打球は、鋭い振り抜きで押さえ込まれてコートに入っている打球より失速します。
さらに、飛びを抑えるのは運動の効率を下げることなので疲労が早まる原因になり、テニスが長時間に及ぶことを考えれば、最後のゲームで元気良くプレーするのには不向きだといえます。
Click!⇒硬く張って飛びを抑えるのは最悪のアイディア
打球がアウトしやすいと感じると、多くのプレイヤーは張りを硬くして飛びを抑えようとします。でもそれは、逆効果になる可能性が高いでしょう。なぜなら、アウトが出やすいのは飛ばすように打っているからで、そういう打ち方になるのはラケットの飛びが悪いからです。振り抜いて抑え込めるセッティングがベストです…
自分に合う
フレームが大前提
ここまでストリング・セッティングについていろいろ書いてきましたが、実は大事なことについてまだ触れていませんでした。
それは、「振り抜ける硬さに張り上げる」ためには、ガットを張るフレーム自体がプレイヤーに合っていなければ「振り抜ける状態」は手に入らないということです。
単純な例では、フレームのスイングウェイトが軽すぎる場合はインパクトでボールに負けてしまうのでスムーズに振り抜くことは不可能です。
現実的に、このパターンで苦労しているしている方は、世の中にはとても多いようです。
フレームの特性がプレイヤーの運動特性に合っていない場合も、スイングパワーが打球にうまく伝わらないので打球衝撃が生まれて振り抜けなくなります。
つまり、フレームがプレイヤーに合っているときにだけ「振り抜ける硬さ」を見つけることができるということです。
両方同時という条件が厳しい
ですから、ストリング・セッティングをいろいろ工夫してみたけれど「どれもピンとこなかった」という場合は、フレームそのものがフィットしていない可能性が高いと言えます。
逆に、いろいろなラケットを試してみたけれど「どれも良い感じで振り抜けなかった」という場合は、それらのラケットのストリング・セッティングが外れていた可能性が高いわけです。
このように、フレーム選択とストリング・セッティングは、両方が同時に適切なときにだけ「振り抜ける状態」が実現するのですが、片方がダメなときにはもう片方で補完することはできません。
合わないフレームをストリング・セッティングで何とかすることはできませんが、ストリング・セッティングが外れているのをフレーム選択で何とかカバーすることもできないわけです。
こうした条件の厳しさが「振れば振るほどショットが安定する状態」でプレーしている方が少ない理由だと思われます。
「力を入れなければ強いショットは打てない!」と信じ込んでいる方は、自分の使っているラケットのことをちょっと疑ってみても良いでしょう。