無意識的な運動を直すには
テニスの無意識的な運動を
修正するには
一度身に付いた無意識的な動きは後で直すことができないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。決してそんなことはないのですが、ただ、普通に行われている「意識的に直そうとするやり方」ではうまく行きにくいでしょう。
自然に直る方法を見つける
ですから、「考えて直す」のではなく、「自然に直る」方法を見つける必要があります。
そんな便利な方法があるのかと疑問に思う方もいるでしょうが、逆に、身体で覚えた無意識的な運動を意識的に変えようとするのは無理があるので、「自然に直る」以外の方法はあまり有効ではないのです。
「無意識運動を意識的に変えようとすればギクシャクした意識運動になってしまう」ので、それでは実戦で通用しなくなってしまいます。
ですから、無意識運動が無意識のまま変化しなければゲームで使える状態にならないわけです。
三種類のアプローチ
無意識運動を無意識のまま変化させるには以下の三つの方法があります。
それは、「無意識化するまで繰り返す」と「狙いで修正する」と「ラケットで変える」です。
無意識化するまで繰り返す
無意識運動を無意識のまま変化させる方法として最もシンプルなのは、「無意識的な運動」を別の「無意識的な運動」に置き換えるという方法です。
「力わざ」と言えるかもしれませんが、時間と労力をかけて「修正したい運動が無意識化するまで練習を重ねる」というものです。
それまでの無意識運動が新たな無意識運動に置き換われば、意識しなくても「自然に直る」ということです。
「なんだそりゃ」と言われてしまいそうですが、身体で覚えた無意識運動でないと対応できないスポーツなので、無意識化するまで同じ運動を繰り返して身体で覚えることが必要なのです。
ボールが飛んでくると「つい、そんな動きになってしまう」というくらいに身体にしみ込めば、結果的に、動きは変わってしまうでしょう。
運動連鎖の習得
この方法は、運動の効率を上げようとする際に有効で、少ない運動負荷で強いショットを生むためのアプローチです。
少ない運動負荷で強いショットを生むためには「運動連鎖」がキーになります。
これは、身体の各部分の筋肉の動きを効率良く連鎖させて、最終的に強いスイングパワーを作り出すためのものですが、具体的には、「下半身の動きが起点になって⇒それが腰から上半身に伝えられて⇒最終的にラケットが引き出される」というようなものです。
強いショットを打とうとすると、どうしてもスイングに意識が向いて腕に力が入ったりするのですが、腕に力が入ると疲れるだけで打球は失速します。
身体全体をムチのように使ってパワーを増幅すれば、一部の筋肉だけに負担がかかることなく、強いショットを打ち出すことが可能です。
ただ、その運動連鎖を身に付けるには繰り返しが必要で、一回できたからといって身に付いたことにはなりません。
ボールが飛んでくれば自然にその動きが始まるまで身体で覚え込むことが必要です。
普段のプレーで気をつけるのはNG
スイングを改善しようと努力する方は、プレー中に「ああしよう、こうしよう」という課題に取り組んでいることが少なくありません。
でも、「普段のプレーでいつも気をつける」というのは基本的にNGです。
プレー中に打ち方を意識するのは、これまで書いてきたようにボールへの集中が途切れてミスが増えるだけの自殺行為なので、「無意識化するまで繰り返す」のは、「実際のプレーで」ということではありません。
「実際のプレー」と「身体で覚える練習」は完全に区分けすることが必要です。
素振り、球出し、壁打ち、ショートラリー
「身体で覚える練習」は具体的にどうすれば良いかということですが、意識的に運動しても失敗しないくらいに優しくできる環境を用意して「同じ運動を繰り返す」ということです。
その「打ち方を気にしても失敗しにくい環境」とは、以下のようなものです。
「素振り、球出し、壁打ち、ショートラリー」
失敗しにくい環境で成功体験を繰り返す
素振りで失敗する人はあまりいないでしょう。
そのほかの環境についても、同様に、考えながらの遅い動きでも何とか対応できそうです。
ですから、こうした優しくできる環境で同じ動きを繰り返せば、効率良く身体で覚えることができます。
「今さらそんな初心者みたいな練習なんてできるか!」と思われる方もいるかもしれませんが、意識的に身体を動かそうとすると、動作が遅くなってギクシャクするのは初心者も上級者も同じです。
ですから、初心者のような練習メニューに取り組むか、あるいは、それをスルーして、プレー中に意識運動に取り組んで初心者のようなミスをするかのどちらかしかないのです。
成功する確率の少ない環境では「成功する動きの習得」は進みにくいので、失敗しにくい環境で成功体験を繰り返すことが「身体で覚える」ことの効率化につながります。
一度できても意味がない
練習中に目指す動きができたときに「よしっ、できた!」と思ってしまうことがあります。
でもこれは、「そのときは一度できた」というだけのことで、それ以上の意味はありません。
意識してやろうとしたことが一度できたとしても、そのこと自体にはほとんど価値がないのです。
「意識してやろうとしなくても知らないうちにできている」ようになるまで、身体に染み込ませなければ「できた」とは言えないのです。
この練習の目的は「身体で覚える」ことなので、そのコツは、「考えなくてもそういう動きになってしまうまで繰り返す」ということに尽きます。
稼働中の修正はダメ
プレー中に打ち方を工夫するのは、機械がフル稼働している最中に点検や修理をするようなものです。
直すのであれば、機械を一旦止めてからやらなければ壊れてしまいます。
「修理」と「稼働」は同時にはできないので、「動きの修正」と「実際のプレー」は完全に切り離してやらないと効果が得にくいでしょう。
ストローク練習などでも、実戦的な打ち合いのスピードの中では、無意識的な運動でないと対応できないので、そこで打ち方の工夫をしてもミスが増えるだけで、動きを習得するには効率が良くないでしょう。
狙いで修正する
人の運動を制御する脳の部分には、「目標が設定されると、その目標を達成するための運動を組み立てる」という機能があります。
もちろんこれは何についてでも可能なことではなく、熟練した運動に関してのことです。
つまり、たくさんの運動パターンが脳のヒキダシに蓄積されている場合に限って、目標達成に最適な運動パターンを選び出してくれるわけです。
ですから、ヒキダシに何も入っていなければ運動を組み立てる材料がないので無理ということです。
テニスの場合の目標とは、「相手コートのどこにどんな球筋でボールを打ち込むか」ということですが、それが設定されれば、その実現に向けて運動が調整されます。
その場合の運動調整は身体全体の動きについて総合的に行われるので、手の動きとか足の運びとかの一部分を動かすわけではありません。
考えて身体を動かそうとすると意識が向いている部分しか動かないのですが、「脳の運動中枢の目標達成機能」に丸投げすると全身の動きを組み立ててくれます。
そして、この機能の存在を信じるかどうかで練習の方法が変ります。
信じる方は、ボールを打つ前に狙いを設定して、そのショットの結果(ズレ)を把握してまた狙うという行為を繰り返します。
信じない方は、狙いを設定するより打ち方のほうを気にすることが多いのですが、狙いを設定した場合でも、ショットの結果を把握するとズレが無くなるように打ち方を修正します。
アウトしたらアウトしないように打とうとするわけです。
多くの場合、前者の方が早く狙いが達成できて、後者の方はアウトの次はネット、ネットの次はアウトというように、行ったり来たりを繰り返す結果になりやすいようです。
狙いを設定することで動きのプロセスが調整される場合、その調整は意識的なものではないので、無意識的な運動から外れることはありません。
対症療法はダメ
「修正したい動きを繰り返して身体で覚える」という原始的な方法以外にも、「無意識的な運動が知らないうちに変わる(自然に直る)」ようになるための方法はいろいろあります。
ただ、どの方法にも共通するのは、出ている症状を抑えるという「対症療法」的なものではなく、「打ち方が変になっている本当の原因を見つけて、そこを変えることで症状が出なくなる」というやり方が基本です。
プレー上の問題点として把握されていることを直接的に直そうとするのではなく、その問題点が発生する原因を見つけ出してそこを変えないと、本来の解決にはならないわけです。
「腕が縮んでいる、振り遅れが多い、回転があまりかからない、力んで打っている、等々」の症状に対して、「そうならないように努力する」というのが通常の「対症療法」です。
具体的には、「腕を伸ばして振り切るように!」とか「テイクバックを早く!」とか「ラケットヘッドを下げて!」とか「力を抜いて!」とかの努力課題に取り組むことが多いのですが、これまで書いてきたように、こうした努力はボールを打つときの運動を意識的に変えようとすることにつながるので、気を付けているときはミスが増えて、気を付けないと動きが元に戻って、ということの繰り返しに終わる可能性が高いでしょう。
ですから、テニスの場合は、対症療法的な修正努力では効果がほとんど見込みにくいとお考えいただいて良いと思います。
努力課題の取捨選択
上達のための努力を熱心に重ねている人ほど、「自分が努力して意識的に変えなければ何も変わらない」と思っていることが多いので、「無意識的な運動が知らないうちに変わる方法」などという話を聞くと、何だかうさんくさい気がするかもしれません。
でも、これまで繰り返し書いてきたように、「努力して直す」というのは有効な対策にはなりにくいのです。
無意識的な運動が変わる場合、当然ですが、その変化は自覚されることはないので、「知らないうちに変わる」のですが、動きが知らないうちに変わるためには、ボールへの集中方法やショットのイメージの仕方など、いろいろな部分を変える必要があります。
でもその前に、本人が努力して取り組んでいる課題自体が変な動きの主原因になっているケースが結構たくさんあるので、それを見つけ出して排除するという方法も有効です。
打ち方の修正も含めて、何かの課題を抱えながらプレーをするというのは結構危険な面があり、努力課題を設定する場合はその内容の取捨選択に注意深さが必要です。
「やってもムダ」ではなくて、「やらないほうが良い」という課題が結構たくさんあるのです。
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ラケットで無意識運動を無意識的に変える
「知らないうちに変わる」という状態を獲得する一つの方法として、意外かもしれませんが、ラケットの選択や調整が有効です。
なぜなら、ラケットを持ち替えるとプレイヤーの動きが「知らないうちに変わってしまう」からです。