ラケットの弊害の排除がゴール
ラケット選びのゴールは
合わないラケットの弊害の排除
テニスワンでは「ラケットにプラスアルファを期待するな」と言いつつ、「ラケットでプレーが改善される」と言い続けています。ずいぶん矛盾することを言っているなぁと多くの方は思うでしょう。
「ラケットに期待するな」というのは、ラケットの選択によって「できないことができるようになる」ことはないという意味です。「苦手なショットが易しく打てるラケットが欲しい」と考えているプレイヤーは意外と多いのではないでしょうか。
ラケットを売る側がこんなことを言っては皆さんの夢を壊すかもしれませんが、ハッキリ言って、ラケットにはプレーをアシストするほどの高度で複雑な機能はありません。
モデル毎に飛びの差や、球持ち感(ホールド性)vs弾き感、シャフトのしなり感などの違いはありますが、その程度です。
テニスのプレーにおけるラケットの役割なんてほんのちょっとしかありません。
それは、プレーする上での人間とラケットの役割の大きさを比べれば、当然のことだと言えるでしょう。
コート上を走り回り、適切なタイミングでボールを打つのは人間の役割で、それをラケットがアシストすることはできません。
言ってみれば、飛んでくるボールをラケットに当てるまでのことはすべて人間にやってもらわないと、ラケットの出番がないわけです。
ということから、プレーの90%は人間の役割が占めていて、ラケットの役割は残りの10%程度だと言えるでしょう。
ただ、ラケットは人間の動きの最後に位置して、ショットの結果を左右します。
単純に言えば、人間が同じ動きをしても、飛ぶラケットではアウトしやすく、飛ばないラケットではネットしやすくなります。
そして、ラケットがそういう状態でも、プレイヤーは常にミスしないように努めますので、ミスショットの結果は人間の動きにフィードバックされて、飛ぶラケットではアウトしないよう、飛ばないラケットではネットしないように動きが調整されます。
ショットの結果がフィードバックされることで、プレイヤーの動きに制限が加えられるのです。
つまり、ラケットはプレイヤーを助けはしないけれど邪魔はするのです。
ラケットの性能はプレーを向上させてくれるものと通常は考えられていますが、実際は、プレイヤーの邪魔をするほうが圧倒的に多いのです。
この辺は、ランナーとシューズの関係によく似ています。
良いランニングシューズを履けば実力より速く走れるということは通常はありませんが、足に合わないシューズを履けば間違いなく遅くなります。
速く走れないばかりかケガや故障の原因になることもあります。
これはどんなレベルのランナーについても共通します。
オリンピック選手であれば2cm大きい靴でもタイムが落ちない、なんてことはありません。その辺でジョギングしているオジさんも同じです。
靴が良ければ実力以上の力が出せるということはありませんが、靴が悪ければ実力が出せないのです。
このように、ラケットの役割はランニングシューズと似ていますが、ラケットがランニングシューズと大きく異なる点があります。
それは、合っているものを選んで使っている割合が非常に少ないということです。
合わない靴のために上手く走れないというランナーも居るでしょうが、合わないラケットのためにプレーが上手くいっていないテニスプレイヤーのほうがずっと多いでしょう。
その理由は、シューズの場合は履いてみて自分で合う合わないの確認ができますが、ラケットの場合はそれができないということにあります。
無意識的な反射運動をベースに行われるテニスというスポーツでは、プレイヤーのパフォーマンスの変化を自分自身で把握するのは非常に難しいといえます。
ラケットを持ち替えるとプレイヤーの動きが変わりますが、プレー中は忙しすぎて、ほとんどの方は自らの動きが良いか悪いかを客観的に判断する余裕がありません。
そのため普通は、プレイヤーについての情報分析は早々に諦めて、ブランドの好き嫌いやプロ選手の好み、人の評判、頭で考えた情報分析などで選んだり、試打して自分の好きな打感のものを選んだりすることになるのです。
そしてその結果、パフォーマンスが良くなったかどうかを確認しないまま使い続けているのです。
こんな状態では合ったラケットを使っている割合が低いのも当然だといえます。
ラケットが極端に重かったりする場合は別ですが、基本的に、ボールがラケットに当たるところまではプレイヤーの責任です。
ボールがラケットに当たってからは、ラケットの性能がショットの結果に大きく関与します。この役割分担の認識がおかしくなっている場合がかなり見受けられます。
「振り遅れが多いから軽いラケットに替える」とか、「フレームショットが多いからフェースの大きいラケットにする」
「ボレーが下手だから飛ぶラケットに替える」とかのパターンです。
技術的に解決しなければならないことをラケットで解決しようとすると、仮にそれが上手くいった場合でも、そことは別な部分にラケットによる弊害が出るようになります。そして、その弊害に、本人は気が付きにくいのです。
初めに戻りますが、「ラケットでプレーが改善される」というのは、「合わないラケットの弊害を排除することで、できることがスンナリできるようになる」という意味です。
言い換えれば、ラケットによってプラスアルファがもたらされることはないが、マイナスの状態を解消してゼロに戻すことができるということです。
何だか消極的な改善のように聞こえますが、合わないラケットと格闘しながら長い練習時間を費やしている方が現実的には非常に多いということを考えれば、ゼロの状態を作り出すことは大きな壁をクリアすることにつながります。