プレー中無意識にやっていること
テニスプレイヤーが無意識に
コート上でやっていること
ここまで書いてきたように、「打つ前のボールの状態に合わせたスイング調整」には、大まかに分類しても、以下のような4つの要素があり、それぞれのスイング調整が適切に、かつ、複合的に行われないと、飛んで来るボールをまともに打ち返すことができないということが、おわかりいただけたと思います。
これだけ見ても、これらの4つのスイング調節を同時複合的にやるのは至難のワザだということがわかります。
「ホントにそんなことをやっているのだろうか」と疑われる方も居るでしょう。でも、これらがきちんと行われていないと狙ったところにボールが飛ばず、打ち合いは続けられません。
誤解を防ぐために付け加えますが、ここまで書いてきたことは、「これから努力して、こういうことをやらなければならない」という課題の提案ではなく、「テニスプレイヤーはすでに、こういうことをやりながらボールを打っている」という現実の説明です。
そして、この「すでにできている状態」を手に入れるために、これまで数え切れないほどボールを打って、多くの失敗と成功を繰り返してきたのですが、その、すでに獲得してしまった「無意識的にスイングを調整する能力」は、実行時にそんなことをしているという自覚が生まれないので、その能力の存在を忘れてしまうのが普通です。
特に、上級者ほどその傾向が強いかもしれません。なぜなら、高度で複雑な運動を考えずにできるから上級者と言えるのですが、考えずに、無意識的にやったことは記憶に残らないので、「無意識的に運動している」などという自覚は生まれないからです。
もしも、プレイヤー自身がプレー中に「無意識的に打つ能力」が機能している状態を自覚できたとしたら、それは「無意識的に打っていない」ことになるので、上達の過程としては「まだまだ」ということです。
高度な運動を無意識化するのが練習の目的であり、そこが上達のゴールなので、打つ前のボールの状態に合わせた複雑なスイング調整をしていることについても、「自分は特に何もしていない、ただ普通に打っているだけ」と思えるような段階にならないと、「打つ前のボールの状態に合わせた複雑なスイング調整」がきちんとできていないわけです。
なので、「無意識的な運動でプレーしている」などと言われても、納得する人が少ないのは、ある意味仕方がないと言えるでしょう。
でも、これまで書いてきたように、実際問題として、そうしたスイング調整が適切に行われていなければ、ボールが適切に飛ぶことは物理的にあり得ないので、上級者の方にとっては不本意かもしれませんが、「運動が無意識的に行われていること」については、ぜひご納得いただきたいと思います。
スイングをいつ決めるのか
それでは、「打つ前のボールの状態に合わせた適切なスイング調整」は、いつ決定されて、実行に移されるのでしょうか。
言葉を換えれば、「打つ前のボールの状態を特定できるのはいつか」ということで、それが決まらなければ、それに適したスイングも決まりません。
当然ですが、相手が打つ前にそれを特定するのは無理な話なので、「相手が打ってからこちらが打つまでの間」に予測することになりますが、その時間はトータルで1.5秒前後(一般レベルのストロークの打ち合いの場合)です。
そして、相手が打った瞬間に、こちらが打つときのボールの状態を予測するのは、ほぼ無理なので、「相手の打ったボールがこちらに飛んで来るの経緯を見ながら判断する」というのが現実的な対応だと思われます。
それにしても、1.5秒前後という短い時間で、飛んで来るボールを見ながら、こちらが打つ前のボールの状態を特定して、さらに、それに適したスイングを決めて実行に移すのは結構忙しい気がしますが、現実は、もっともっと忙しいのです。
決まらないうちに始めなければならない
なぜなら、プレイヤーには、ボールが飛んで来ている間にやらなければならない大事なことが他にもあるからです。
それは、ボールを打つための準備動作(先行動作)です。
瞬間的にパッとラケットを引いて打つことはできないので、 打ち返す側のプレイヤーがラケットを引き始めてからボールを打つまでには結構時間がかかります。
上体だけの手打ちではなく、下半身を含めた全身運動でボールを打つには、トータルの動きにそれなりに時間がかかるので、そのための十分な時間を確保するために、ある程度早めに運動を開始する必要があります。
人によって違いはありますが、身体を横に向けてラケットを引き始めるという先行動作のスタートからインパクトまでの時間はだいたい1.0秒くらいです。
(※この時間をもっと短くすることはできますが、短くなればなるほど打つ前の準備が不十分になるため、しっかり打てなくなるようです。言葉を換えれば、動きのスタートが遅れたという状態です。)
そして、「相手が打ってからこちらが打つまでの時間がトータルで1.5秒」だとすれば、そこから、「先行動作の開始からインパクトまでの1.0秒間」を差し引くと、相手が打ってから0.5秒くらいで、そのボールを打ち返すための先行動作をスタートさせなければ間に合わないようです。
ですが、その時点は相手が打った直後であり、打たれたボールがネットを越えるか越えないかというタイミングなので、普通であれば、フォアかバックかがやっと見極められるくらいの状態です。
ということは、こちらが打つ前のボールの状態をきちんと特定できない段階でスイングをスタートさせているわけです。
どんなスイングが適しているかわからない状態でテイクバックをスタートさせて、そこからインパクトまでに、飛んで来るボールを見ながら打つ前のボールの状態を予測して、それに適したスイングを選んで実行するというのが、コート上で起きている現実のようです。
ですから、「見極め」「スイング選択」「実行」はほとんど一体化していて、ボールを見極めた瞬間に身体が反応するという「目と身体が直にリンクしたような状態」だと思われます。
身体が勝手に決めて実行
打ち合いが続いているときには、プレイヤーの意識は飛んで来るボールに集中しているのですが、その最中に、プレイヤーの身体のほうはかなり複雑なことをやっているわけです。
そして、その過程でプレイヤー自身が具体的な打ち方について何かを決めたという記憶が無い場合は、「打つ前のボールの状態に合わせたスイング調整」は自動的に、無意識的に起きているわけです。
ライジングで打つ際のフェース面の角度や、リターンの際のスイングの大きさや、低いスライスのボールを打ち返す際のテイクバックの位置などについて考えたり、決めたりした記憶が無い場合は、それらは身体が勝手に決めて実行したということです。
もっとも、飛んで来るボールに対してプレイヤーが考えて何かをやろうとしても、「さて、どうしよう!」という言葉が浮かぶだけで1秒くらいは過ぎてしまうので、ゼロコンマ数秒という時間では考えがまとまるはずはありません。
なので、そこで起きているのは、飛んで来るボールに対する反射的な対応だと言えるでしょう。
複雑なことを瞬間的にこなすには、頭で考えずに身体の反射に任せるしかないわけです。
そして、ここまで書いてきたことにご納得いただけた方は、上達のため取組を大きく変更する必要性に気づかれたかもしれません。
というのも、自分の打ち方を改善するのが上達への道だと信じている方が多いのですが、実は、その取組には出口が見つからず、無意識的な運動が無意識的に変わることを目指さないと迷路から脱出できないからです。
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