振動止でインパクトの質が低下する

テニスラケットに付ける振動止と
インパクトのタイミング

ラケットに取り付けるのがほぼ常識となった「振動止め」ですが、本当に「付けたほうが良い」ものなのでしょうか。振動止めがプレー上のデメリットをもたらす可能性について書かせていただきます。

ちょっと濁った打球感

テニスラケットのストリング面は、ボールを打ち返す際にその全部が使えるわけではなく、うまくボールが飛ぶ場所とそうでない場所があります。

そのうまく飛ぶ場所は、普通はスイートエリアと呼ばれていますが、その中でも特に「打った感じがしなくてボールが最も良く飛ぶ限られたポイント」があって、そこは「スイートスポット」と言われています。

そして、インパクトポイントがスイートスポットからガット2~3本ズレると、例えそこがスイートエリア内であっても、ちょっと濁った打球感になります。

そしてさらに、スイートスポットのインパクトとガット2~3本ズレたインパクトの違いを感じ取ると、テニスプレイヤーの身体は自然に「感触のないクリアなインパクト」を探しながら打つようになります。
意識的にではなく、自分の知らないうちに不快なインパクトを避けようとするわけです。

手応えのないクリアなインパクト

これと全く同じことが、インパクトのタイミングについても言えます。

つまり、インパクトがベストのポイントから2~3cm前後すると、言い換えれば、タイミングがほんの少し早かったり遅かったりすると、ちょっと濁った打球感になってボールの重さを感じます。
相手の伸びる打球を打ち返すときに重く感じるのは、弾んだあとの打球のスピードが予想より少し速かったため、インパクトのタイミングが少し遅れたことによるものです。

そして、プレイヤーが前で打とうとか、引きつけて打とうとかを作為的に決めない限り、プレイヤーの身体は「手応えのない最高のインパクトポイント」を探しながら打つようになります。

ということで、手応えのない抜けるような打球感は、インパクトの場所と時間が両方ともピッタリのときだけ得られるわけです。

ちょっと外れたインパクトが
感じ取れない

ここまで書いてきて、やっと振動止めが登場するのですが、振動止めは打球の衝撃感をマイルドにしてくれます。
それによって、手応えが少し優しく感じられるのですが、それは同時に、打球感を鈍くすることにつながります。

そうすると、スイートスポットのインパクトと、ガット2~3本ズレたインパクトの違いがわかりにくくなります。

この両者の違いが区別できないと、身体のほうは、スイートスポットのインパクトを探さなくなります。
違いがわからなければ探しようがないわけです。

これについては、インパクトのタイミングも同様で、感覚的な違いが感じ取れなければ、微妙なオフタイミングのインパクトがOKになってしまいます。

振動止で飛びが鈍くなる

私どもはこれまでも、振動止めの有る無しで打球がどう変わるかを観察したことがありますが、やはり、振動止めを付けたときのほうが飛びが鈍くなるように見えます。

振動止めの有る無しでラケットやストリングの反発力が変わるとは思えないので、プレイヤー側の反応の違いだと思われます。
伝達効率の悪い場所と伝達効率の悪いタイミングを敏感に感じ取れるようにしておくことが、効率の良いテニスをするためには必要なようです。

エルボーの予防?

肘の故障が心配な方は、「予防のために振動止めを」と思われる方も多いのですが、実際問題として、故障予防の効果はあまり期待できないようです。
なぜなら、振動止めを付けていなかったからテニスエルボーになったというケースはこれまであまり聞いたことがなく、振動止めは付けていたけれどエルボーになったという方がほとんどだからです。
でも、気持ち的に「振動止めははずせない」と思っているわけです。

合わないラケットやストリング・セッティングでは打球衝撃が強くなるので、それを振動止めで消そうとしても、衝撃を感じ取りにくくすることはできても、ダメージそのものを消すことはできないようです。

衝撃を感じ取りにくくすることが、かえって、衝撃を放置することにつながる可能性もあるわけです。

ラケット自体に問題

「自分は振動止めを付けないとダメなんです。」という方も、ラケットドックで合うラケットに出会うと「このラケットなら振動止めが要らない」と言われることが珍しくありません。
長いタイプの振動止めやグリップテープの二重巻きなどは、合わないラケットのイヤな衝撃を和らげようとするのがスタートラインのようですが、それによってプレー上で新たな問題を発生させることもあるようです。

感じにくくすることのデメリット

ラケットドックで合うラケットを手に入れても、振動止めを付けていると、ガット張りが合わなくなったときに、自分で気付きにくいということもあるようです。
ガットが伸びたときの鈍さや打感の重さについても感じにくくなるようです。
衝撃回避のために、デコボコタイプのグリップテープや長いタイプの振動止めを付けることで、かえって、クリアなインパクトが探しずらくなってしまい、雑なインパクトが増えることで、知らないうちにダメージが蓄積することもあるということを頭の片すみに入れておいてください。

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◇ボールが面からこぼれてネット
ガットが動かないと「食い付き感」が生まれないので、インパクトでボールをつかまえられずにポロッとこぼれてネットすることが多くなります。そう、あの惜しいネットは食いつかないガットのせいで、自分のせいではなかったかもしれないのです。
◇スピンで押さえ込めずに浮いてアウト
さらに、インパクトで動いたガットが戻るときに順回転がかかるので、ガットが戻らないと回転が安定せずスッポ抜けのアウトが出やすくなります。逆に、確実に回転がかかればショートクロスやスピンロブなどが打ちやすくなります。
◇打球の深さがバラバラ
ガットの動きが安定せずに、ボールインパクトで動いたり動かなかったり、戻ったり戻らなかったりすれば、フェースから打ち出される打球の角度が毎回変わるので、その影響で打ショットの深さが不安定になります。

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