苦手なショットが固定化する仕組
テニスの苦手なショットが
生まれる仕組みと克服方法
テニスをやっていれば誰にでも、得意でないショット、失敗しやすいショット、苦手なショットというものがあると思います。
そういうショットで失敗すると「またやってしまった」と思うわけですが、今回は、そういう苦手なショットの克服法についてです。
失敗するイメージがある
ゲーム中に、苦手なショットを打たなければならない状況になると、そこでまず起こることは、「ちょっとした緊張」です。
これは、「失敗したくない」と思うからですが、それはすなわち、「現実的にはある程度の確率で失敗する」ということが想定に入っていることを示しています。
打つ前に、「失敗するかも」という小さな声が頭の中で聞こえます。
失敗するイメージがあるから、失敗しないように心がけるわけです。
注意点がある
さらに、苦手なショットには何かしら注意点というものがあるはずです。
仲間から、「それじゃ、ダメだよ。もっとこういうふうに振らなくちゃ」と、言われたり、スイングを改善しようと自分自身で工夫したりする結果、打つときに注意すべきポイントがいくつかあるということが多いのではないでしょうか。
注意点が必ず頭に浮かぶ
苦手なショットを失敗すると、「あっ、そうだ。こうするんだった」と言われていた注意点を思い出して、次からは忘れずに実行しようと考えます。
その後は、苦手なショットを打たねばならない時には、必ず、その注意点が頭に浮かぶようになります。
そしてこれが、苦手なショットが固定化する過程なのです。その仕組みは以下のようなものです。
イメージが実現する
まず第一に、人にはイメージしたことを実現する力があります。
失敗したくないという思いが強ければ強いほど、その裏側にある失敗するイメージも強いと言えるでしょう。
勝敗のかかった大事なサーブで、絶対にダブルフォールトはしたくないと思った瞬間に、ダブルフォールトの発生確率はグンと上がります。
そんな状態でダブルフォールトをすると、「クソッ」と思うと同時に、何となく「思ったとおりだ」という感覚が生まれたことはないでしょうか。
日常生活では、悪い事態を想定して事前に対処しておくという姿勢は正しいかもしれませんが、テニスでは、失敗を想定すると、その想定したイメージどおりに失敗するという傾向があります。
行動目的にならない
「失敗しないように」というのも含めて、「何々しないように」というのは、行動の目的にはなりにくいということをご理解ください。
何かをやるときにはがんばってやることが可能ですが、何かをやらないようにがんばることは基本的にできないわけで、がんばって失敗しないようにするというのは実際には不可能です。
「失敗しないようにがんばります!」というのは、良く耳にする言葉の割に、それ自体は具体的な行動指針にならないわけです。
失敗しないように打とうとすると、行動の目的がない状態で失敗のイメージだけが忍び寄るわけで、そんな状態では、うまく打てる可能性は小さくなる一方です。
ボールに集中できなくなる
第二に、打とうとする時の頭の中に注意点が浮かぶと、それが原因で、失敗の確率が上がります。
人の意識は、同時に二つの所に向けるのが難しいため、何かに注意が向くと、他の所に対する注意がおろそかになりやすいという傾向があります。
打つ時に「そうだ、こうしなくちゃ」と考えると、当然のことながら、身体の動かし方に意識が向きます。そうすると、飛んでくるボールに対する注意力が低下するので、タイミングミスを起こしやすくなります。
身体操作に注意が向くと、ボールに集中しにくくなるのです。
動きが硬直化する
第三に、打つ時に強い動作イメージを持っていると、どんな状態のボールでも、そのイメージで画一的に打とうとしてしまうため、動きがギクシャクして不自然になります。
テニスは基本的に、画一的な動作イメージでボールが打てるスポーツではありません。
飛んでくるボールの状態に合わせて毎回動きを変えないと、うまく打てないスポーツです。
簡単に言えば、飛んでくるボールに合わせて適切に(適当に)スイングするしかないわけです。
体の動きとして正しく美しいスイングをすることより、飛んでくるボールに合っているかどうかのほうがずっと大切なのです。
「このショットはこうやって打とう」という意識が強すぎると、ボールへの集中力が低下すると同時に、スイングが自分本位になって硬直的になり、柔軟性が失われる原因になります。
失敗の連鎖
1.失敗するイメージがあって、2.ボールへの集中が途切れて、なおかつ、3.画一的な動作イメージで体の動きがギクシャクしてしまうというような状態では、ミスしないほうがおかしいと言っても過言ではないでしょう。
こうした「失敗の連鎖」は、「苦手だ」と思うところがスタートラインです。
それでは、「苦手だと思うからうまく打てない」⇒「うまく打てなかったから苦手だと再認識する」という「苦手の悪循環」から抜け出すには、いったいどうしたら良いんでしょうか。
苦手なショットを克服するには
苦手だと思わなければ良い!?
もしかすると、最初に苦手だと思わなければ、そのショットが苦手になることはなかったのかもしれません。
ある日の練習で、ほんの少しミスが多かっただけで、それを自分の欠点だと意識して、きちんと直そうとする努力を始めてしまい、それが原因で苦手がガッチリと固まってしまったのかもしれません。
苦手なショットを強く意識すればするほど、うまく打てなくなることは間違いないので、苦手だと思わなければいいのです。
でも、先程書いたように、「何々をしないように頑張る」というのは、あまり現実的ではありませんので、苦手だと思わないようにするというのも、あまり有効ではありません。
ですから、「何々をしないように頑張る」かわりに、「何々をするように頑張る」ためのテーマを他に見つければ良いのです。
得意なショットには
「成功のイメージ」がある
得意なショットを打つ時には、失敗するかもというイメージはないはずです。
現実的には、得意なショットでも全くミスしないということはないでしょうが、少なくとも、打つ前にマイナスイメージが浮かぶことはあまりないでしょう。
さらに言えることは、得意なショットは打つ前に、どこに打ち込むか明確なイメージができているのではないでしょうか。
自信のあるショットは、どこに打ち込もうかと考える余裕があるわけです。
得意なショットでは、打つ前に「成功のイメージ」ができているわけです。
苦手なショットには
「狙い」がない
それに比べて苦手なショットは、どこに打ち込むかなんてことは考えられず、そんな高望みはせずに、向こうのコートに入れば良いという状態ではないでしょうか。
ですがこのように、狙いが無くて「ただ入れば良い」と考えることが、失敗の1stステップなのです。
狙わないショットのほうが
失敗しやすい
というのは、コートの向こう側に入れば良いというのはターゲットとしてはアバウトすぎて、具体的な行動目標にならないからです。
どこかを狙うから、それに適した身体の動きが決まるのですが、どこも狙わないという状態では、身体がどう動けば良いのかわからないままボールを打つことになります。
サーブが苦手な場合は、「入れば良い」と思ってしまいがちですが、「入れば良い」というサーブはどうやって打てば良いのか分からないので、萎縮した迷ったままの動きで打つことになり、結果的に失敗が多くなります。
苦手なショットには
成功のビジョンがない
狙いがあるから、それによって自動的に、インパクトの限られたポイントが決まるのですが、狙いがなければ、それに適したインパクトポイントも決まりません。
目標がない状態で打つわけですから、ボールがどこに行くかはわかりませんし、どこに飛んでも成功ではありません。
相手コートにうまくコートに入った場合も、ただの偶然ということです。
こういう状態を何度繰り返しても、ショットの精度が上がることはないでしょう。目標がない場合は、精度もないわけです。
狙いがあれば、それに対する成功と失敗があるのですが、狙いがないということは「成功のビジョンがない」ということです。
苦手なショットの特徴は、もともと「成功のビジョンがない」ということで、それに加えて「失敗のイメージがある」から失敗しやすいわけです。
結果のビジョンが必要
得意なショットは、打ち込む場所をイメージするだけで、それが実現されるように身体が自然に動くのですが、苦手なショットは、打ち込む場所のイメージがない状態で、身体をきちんと動かそうとするわけです。
生産の仕事に例えれば、どんな製品を作れば良いのかわからない状態で、「とにかくきちんと作れ!」と言われるようなものですから、やらされるほうは困ってしまいます。
「こういう製品を作れ」と言われれば、それに最適な準備をして効率の良い工程を組むことができます。
それと同じように「こういうショットをあそこに打ち込む」ということが決まれば、具体的にどういう動きをすれば良いのかが決まります。
失敗しないために必要なのは、しっかりした結果のビジョンを作ることです。
「わたしはへただから、どこかを狙うなんて」という方も居ますが、どこに打ち込むかを決めるということは高望みではなく、ショットが成り立つ上での「最低限の条件」なのです。
狙いをハッキリ持つことが
苦手の克服につながる
失敗しないように努力するのではなく、成功のビジョンを強く持つべきです。
苦手なショットほど、どこに打ち込むかをハッキリとイメージすることが大切です。
そのほうが、失敗したくないと考えながら身体を硬直させるより、ずっとましな結果が出るはずです。
同じ失敗でも、狙って失敗すると「次は」という気になりますが、狙わずにただ打ち返そうとしてそれに失敗すると、「下手クソ」と自分の能力に失望してしまうのではないでしょうか。
ピンポイントで狙う
もちろん、苦手なショットでラインギリギリを狙うのは無謀です。
苦手なショットでなくても、打ち込む場所は誤差範囲を想定した安全圏内にするべきです。
狙ったポイントから半径1mくらいが安全圏という人は、ラインの1m内側がねらい所です。
(※誤差範囲が1mというのは、実際には相当上手い方ですが)
苦手なショットでは、さらに内側を狙うことになりますが、大切なのは、そこを「ピンポイントで狙う」ということです。
それによって、そこに打ち込むための動きが合理的になり、なによりも、打つ前のマイナスのイメージを払拭することができます。